ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
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とりあえず、一人になりたかった。というより、狭い部屋に二人きり。そんな状況が、あまりにも危険に思えた。
だから「着る物を買う」と言って部屋を出て来たのは、単なる口実である。いつまでもあんな破廉恥な姿をさせておくわけにもいかないのは事実だが、それも実は自分のためだった。
そう、自分の精神を乱されないよう、まずはあの女に衣服を買い与える。その目的で一人外出したのも、落ち着いて今後の対策を熟慮する時間がほしかったから。
当然ながら、真が部屋に居つくことを俺が認めるはずがない。その点だけは、くれぐれも誤解なきように願いたいものである。
俺は十年乗り続けている軽自動車を二キロほど走らせると、目的の店舗の広い駐車場へとそれを滑り込ませた。
その店――衣料品チェーンの『ナイスファッション・イマムラ』は、庶民の味方である。安価であり俺自身もよく利用しているのだが、それでいて若者向けの衣服も充実しているように思う。
開店したてのその店内は、平日だけあって客の姿は疎らだ。
「まったく、なんで俺がこんなことを……」
と、少々嘆きながら、俺は普段なら決して立ち寄らない女性衣料品コーナーを目指した。
「あ、失礼――」
若い主婦らしき女性と肩を触れ合わせ、慌てて恐縮しきりに頭を下げる。なにやら訝しげに浴びせられている視線が、とても痛々しく感じられた。