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本気になんかならない

第19章 中秋

ふと見ると、北里の頬に涙のひとすじ。

「感動した?」

俺はハンカチを差しのべたけど、
北里はその手をパシッと振りはらった。
はずみでハンカチは床に飛ぶ。

そんだけの元気があれば心配ないな。

「じゃ、俺行くから」

店内の客数人は何があったのかと
未だチラチラと俺たちを盗み見る。

はっきりとは聞きとれないけど
「女たらし」とか「優男」とかいう単語が
俺の背中を冷たく刺す。

どんな勘違いだよと、
訂正することもできなくて。

落ちたそれを拾いあげて出口に足を向けた。

だけど北里はさらに強く
俺のカバンを引っぱった。

「待って、、お願い。
もう少しだけ一緒にいて?

こんなところで女がひとり泣いてると
ナンパされちゃうかもしれないでしょ?」

この店にはマスターもいるから
大丈夫だとは思うけど、、

背後の視線はまあいいか…

落ちつくまでならと俺も
対面に腰をおろした。

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