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本気になんかならない

第20章 リンドウの咲く季節

「え?」

右手で襟をつかまれて、左足跳ねとばしを試みられて、たいおとしのような姿勢になる。

「だから、何でっ?」

「あえて言うなら、友だちだからだっ!」

…友だちだから?
それに、これって、ケンカっていうより、柔道…。

こんな狭いところで、、
俺は部屋の配置を見渡した。
バケツや古布が散らばって、台車も放置だし。

「お前が優しいからだ。
お前、俺の背中をさすってくれたろ?」

「はぁ?」

「バスのなかで、たまご詰めたとき」

いやそれは、しんどそうだったし…。

「帰りはとなりでくーくー寝てるし!」

俺を持ちあげようとしながら、部長は吐きすてるように言う。

あ、やっぱり帰りのバスも
となりは部長だったよな。
途中から小浜さんになったわけだ。
俺は自分の記憶が間違っていなかったことに安堵しつつ、部長に返した。

「ああ、悪かったな!」

カラオケに参加したくなかったんだ。
俺にとっての親睦は、一緒に移動だけで充分。

「おかげで俺はなっ!…っ」

体重移動が思ったようにいかなかったようで
体勢を崩した部長は、
中途半端に折りたたんであった長机の上にひっくり返りそうになって

「危ないっ!」

俺と部長はドサッとその脇に倒れこみ
それとともに、ビリっと音を出してシャツが裂けた。

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