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本気になんかならない

第29章 オーバーラップ

2回生にあがって、それは夏。

今日は日本古典文学研究会全体での、秋の学祭の打ちあわせのようで。
これまで互いの部屋を仕切っていたふすまが開け放たれ、大所帯の部室。
諸先パイがたが、前でいろいろと討議されている。

テーマは、古典にあっては、はずせないくらいの源氏物語。
54帖に渡る物語には、さまざまな登場人物がいて。
そのなかの誰に焦点をあてるかで、話しあい中、らしい。

「私は夕霧(光源氏の一応の長男)を推したいんだけど、
のちに雲居の雁ちゃん(妻)を泣かせてるからなぁ」

「朧月夜(光源氏の異母兄の妻)じゃない?
好きな男か、好きになってくれる男か」

「それなら、浮舟(光源氏の一応の二男:薫の愛人)でしょ?
男ふたりのあいだで揺れに揺れる」

「もとは薫が悪いのよね。
寂しい場所に浮舟をほっとくから」

「それに柏木(夕霧の親友で薫の父親?)だって、源氏の女を寝取ったことを死ぬほど、気にするのならさぁ。
やんなきゃいいのに。
だから、雲居の雁まで巻きこまれるのよ」

ってぐあいに、そこかしこで名前があがり…
ザワザワと気ままな意見交換が繰りひろげられる。

「ちょっと!こんなんでまとまるのぉ?
もう秋まで3ヶ月くらいしかないのよ?
リーダー、ちゃんとしてよ!」

「もう、キリなさげだから投票にしようぜ?」

責められだした企画長が、脚を組みかえて提案して。
それでもザワザワの波は途絶えることなく続き、俺はスマホを取りだし、時刻を確認する。
その横から肩を寄せてきた佐倉が言った。

「なあ、宮石。
この会話についていけないのは俺だけか?」

「俺も。
登場人物の名前聞いただけでは姫か殿かもわからない。
名前ってことすらわからない」

…あまりの場違い感なので、
俺と佐倉は投票結果を待つことにした。
つまり、帰った。

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