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本気になんかならない

第31章 スクロール

俺の対面に座りながら、和史さんは言う。

「貴志がすげく心配してたぞ?
あいつがサボるなんて、何かあったに違いないって、警察呼ぼうとするから止めるの苦労したよ。
しかたないから、お前は彼女と産婦人科だって話したからな」

俺は彼女と産婦人科?
それじゃあまるで、俺が彼女に何かをしちゃったみたいじゃないか。

「…また誤解を生むようなこと、言ったんですね?」

貴志、真に受けたろうな。
千尋さんも、さっきは大きく勘違いしてたようだし。

「事実だろ?」

「…事実ですけど…言いかたに問題がありません?」

軽く咎めるように口を尖らせる俺に、
和史さんは涼しく笑う。

「貴志の通報を防ぐために、
厨房を預かる多忙な俺は最大限の努力をした。
よって、俺は悪くない。

問題があるとするなら、
目の前にあるのに食べてもらえないできたてホットケーキの気持ちが理解されてないことだろ?」

「…そうですよね。
すみません、悪いのはサボった俺です。
それなのに、朝食まで作っていただいて
どうもありがとうございます。
早速遠慮なくいただきます」

ホットケーキの気持ちって何?とは思ったけど、
そもそも和史さんを言いふくめられるわけがないと息を漏らした俺は、バターたっぷりのキツネ色にナイフを入れた。

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