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本気になんかならない

第31章 スクロール

店内に入ると、千尋さんはすぐにシャワーを浴びに行った。
俺が奥に向かうと、キッチンからプレートを3枚持った和史さんがやって来て、テーブルに並べながら言う。

「おい、和波!朝帰りなんて。
父さんはそんなコに育てた覚えはないぞ?」

「昨日は穴を開けてしまってすみません。
連絡も、せず、」

言いたいことはいろいろあるけれど、まずは偽父に謝ろうと俺は頭をさげる。
だけど、謝罪はすぐにも遮られる。

「なんてな。知ってるよー。
お前、紀ちゃんとデートだったんだろ?
俺が手を振ってるのに、ふたりでガン無視しやがったもんな」

ああ。
ここのふたりには、病院入るところを見られたんだよな。
俺、どんな顔してたんだろ…。

「気づきませんでした、すみません。
あの…」

謝罪を続けようとした俺の髪をわしゃわしゃとかき混ぜながら、和史さんは言う。

「で、紀ちゃん、元気?」

「はい。可愛い女の子が生まれました」

「え?生まれたの?そりゃ、めでたい。
じゃあ、名前はさ、和紀だよね」

「北里と誰の名前をくっつけたんですか?」

「もちろん、俺~」

そんなセリフが返ってくる気がした俺は、思わず苦笑いで勧められた椅子にかけた。

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