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本気になんかならない

第36章 夜は恋蛍

「北里さん、来られてたんですか」

相手はサークルの後輩、日に焼けた快活青年。

「ああ、能『定家』、とてもよかったわ。演出が込んでて、舞台も本物みたいで」

「ありがとうございます。そう言っていただけると、がんばった甲斐があります。

ところで、気の早い話なんですが。
俺、企画長から次回の役者を年内に集めろと言われてまして…なのに来期メンバーって、裏方好きばっかりなんですよ。

そこで北里さん、OG出演してもらえませんか?役柄は決まっていませんが、源氏物語の予定なんです」

話が長くなりそうと予感した友人は、気を効かせてほかのお客さんに混ざって行ってしまった。

「おもしろそうだけど、ごめんね。今の職場は、休日も部活とか講習会とかあって、時間がとれないのよ」

断る私に、後輩は食いさがる。

「そうですよね。働くって大変ですものね。
でも、北里さんの姫姿、また見たいなぁ。2年前のお芝居ではたしか…」

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