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本気になんかならない

第36章 夜は恋蛍

後輩の思出話を耳に入れながら私は、少し横で言いあっている学生に気をとられていた。
あのふたりとも、見たことある…弓道大会で和君といたはず。。

ちょっと意識を向けると、滑舌の良いふたりの会話が聞こえてくる。

「定家の心は、やっぱわかんねぇな。面影、追いすぎだろ」

「あんたやっぱ、宮石君の足元にも及ばないわ。"心をば"の和歌だってね…」

彼の名前が出たとたん、やっぱり!という思いと同時に、身体が跳ねるようにびくっとした。
後輩はハテナな顔を一瞬見せたけど、私は愛想笑いでごまかす。

ふたりの話をもっと聞いていたかったな。とか思いながら、勧誘に勤しむ後輩に目を向けた。

「北里さんも池様がお好きですよね?」

「私、光源氏にそこまで思いいれないわよ」

「架空人物じゃなくて、現実世界のことですよ。
若君役に推されてるのがですね……逃げられると困るから、本人にもまだ秘密なんですが。。
別組の1年で、ミスターキャンパスにもなれそうな男なんです。ちょっと興味わきません?」

……カッコいい男と共演できますよ?って言いたいわけね。

「それはぜひ、観客席でお目にかかりたいわ。じゃ、友だちとはぐれるといけないから。今日は楽しませてくれてありがとう」

講堂をあとにした私の胸は、騒ぎっぱなしだった。
彼の名前をほんの一瞬、聞いただけだというのに。

そして私は、サークルの和室で知る。
彼が同サークルに所属していることと、先ほどの会話中の若君候補だってこと。

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