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本気になんかならない

第6章 最後の夜

北里は足取り軽くバーに入っていく。
用事だと抜けた俺は、ちょっとバツが悪くて、ペコと頭をさげた。

「ただいまぁ!マスター、よろしくね!」

仮面を取ったマスターは、俺と目をあわせてニッと笑った。
コートを椅子の背にかけて、ふたり席に着いた。

カウンターの女性がこちらを見て「ぷっ」と笑って。
それに気づいた北里が言う。

「ちょっとぉ、笑うことないでしょ?普段はすっごくハンサムなのよ?
バイオリンを弾かせたら卒倒者続出よ?
だから、女のコがほっとかないの」

そして俺に向きなおる。

「もうっ、すぐに冷やせば、そんなに腫れなかったのに。痛かったでしょ?」

「すまないね、今日に限って」

北里的には、あの女性に自慢したかったのかな?
あんまり自慢して恨みをかってもよくないから、これでよかったんじゃないか?
大袈裟に俺をかばう北里は、おもしろいけどね。

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