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本気になんかならない

第6章 最後の夜

そして、チョコを頬張る北里に教える。

「袋のなかにまだ入ってるだろ?」

「え?何、何?」

先ほど放りだした紙袋を慌てて覗く。その必死感ただよう表情、可愛くて笑える。

「テナーだけじゃなくて、ソプラノからバリトンまで使えるって」

それは、サックスのストラップ。革のクッションで、見た目もあがると思って。

「ふうん、ショルダータイプって初めて」

「あんまりショルダーに見えないし、首が楽になるらしいよ?」

「へぇ…。色気ないけど、嬉しいわ」

「実用的だろ?前からはカッコいいし、後ろ姿は可愛いと思うんだ」

「それは私だから?」

「んー?」

「こらっ!そこはお世辞でも、うなずくとこでしょ?」

「ははっ」

北里に胸をポカポカ叩かれて、恋人同士みたいって、まだズキズキと思っちゃう俺。
俺が、北里より早く生まれてたらなぁって。
もう、そんなどうしょうもないこと、望むな、俺っ。

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