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短編集?

第2章 匂い

バタンとドアが閉まって

下着姿のまま

私は部屋に取り残された

必死の薄ら笑いを浮かべながら

見送る私の顔は

あの人にはどう、映っただろうか


さみしい


かぶりを振って

今までいた部屋に戻る

ワンルームマンションの

寝室兼リビング兼性行為や諸々の生活をするところ

臭い

ずり落ちてきたキャミソールの肩紐を上げて

ぽつん、と部屋の真ん中に

座り込む

タバコのにおい

汗のにおい

人間のにおい

食べ物のにおい

それらが混ざって

総じて

臭い

それに交じってかすかに

男と女の匂い

発情したニンゲンのオスとメスが出す

独特の体臭が

この部屋の床によどむ

今まで二人が寝ていたシーツに顔をうずめて

汗と

香水と

洗剤

柔軟剤

そして

零れた精液の匂いを鼻孔に取り込む

私があの人の所有物扱いされた証

私の中に残る

あの人がしていったマーキング

今頃、私の子宮は

自分じゃない匂いで満たされているのだろう

私は知っている

避妊しなかった女性は

その日ずっと、性行為した相手の匂いをさせていることを

私も今日は一日

彼の匂いを振りまいて

生きていくのだろう

濃厚なニンゲンの香りをさせながら

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