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a faint

第46章 N-21


N’s eyes

横目でチラと見遣った暗い車窓に 顔面のパーツが全て映ってるのは つまりそう云うコトで。

短いストレートな髪に覆われた後頭部は こっちを向きたくない意思表示。

向く気がないなら 向かせるまで と肩先に触れようとした寸前 パチと小さな音を立てた爪を伝い ピリッとした痛み。

カサついた指先を容赦なく弾く静電気が 声にならない拒否反応を思えて 妙に腹が立つ。

そっちがその気なら…と少し意地の悪い気持ちが頭を擡(もた)げ 窓のガラスを下げてやれば やたら潮の匂いが強い風が入ってくるのは 湾岸を飛ばしてるせい。

それでも 頬杖をついたまま 風の勢いに一瞬だけフルリと身を強ばらせただけで 後は微動だにせず 振り向く気配を微塵も見せやしない。

風圧にもめげないその頑固さに だったらとアクセルを更に踏み込む。

流れ込む風が強くなれば 否応なしに こっちを向かざるを得ないであろうチープな作戦に撃ってでる。

やかましい風に 鼓膜を吹かれようが 髪をグシャグシャに乱されようが その顔はそっぽを向いたまま。

結果、喧(やかま)しさに音(ね)を上げたのは俺の方。

ガラスを何事も無かったかのように上げるしかない。

その瞳に 何を写し込み その息に 何を吐き出しているのか。

問えず 聞けず 応えず 言わず。

仄暗い沈黙の黒と テールランプの赤が螺旋状に交差し 折り重なって 思考と視界を埋めていく。

募(つの)る想いは反芻して 積もる思いは反復する。

『だから それが 覚悟なんだよ』

そう言って 下唇を噛み締めたのはコイツ

『それを言っちゃうのが カッコ悪いけど』

そう言いながら 照れたように笑ったのもコイツ

こんな純愛 こんな醜聞 こんな逃避行 果たして。

愛と情の狭間を揺蕩(たゆた)いながら このまま夜明けまで 走りぬけても構わないか?

たった一人への ただ一つの 願い

ただ一人への たった一つの 望み そして 祈り

誰よりも 愛してるよ 今も いつも。

溢れる感情が 振り回されないよう 早い夜が明けてしまう前に 塒(ねぐら)へ戻ろう。

Secret lover。

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