a faint
第47章 A-25
A’s eye
『マタタビも凌駕する食いつき!もうたまらないニャン』
ポケットに入ってる斬新なネーミングのキャットフードはテレビCMで よく流れてるヤツ。
それを出そうと 屈んだ俺の膝上に 珍しくヒョイと上がってきたキジトラは短く
”ニャー…”
戸惑う反応の俺を見上げて 更に
”……ニャアン”
なんて小賢しい…もとい 愛いやつ。
”今ならイケるかも……”
淡い期待を胸に 抱き上げようとした腕を 一刀両断する勢いで 叩(はた)き落とす尻尾と
”…シャーッ!!”
歯を剥く思わぬ威嚇に 怯んでいると
「……おい」
不意の呼びかけに頭を巡らせれば ボトルカーから手招く二宮さん。
キジトラが 動いてくれそうになくて オタオタしている間に 二宮さんさんの腕が大きくしなった。
膝先に落下したのは 500円玉 一つ。
「…?」
小首を傾げた途端 運転席側の開いたドア向こうで ブハッと吹く声。
「ほら!」
次に飛んできたのを どうにかキャッチすれば
「え?」
鍵?…そして 500円玉?
疑問符だらけの俺に 腕で口許を隠して笑いを堪えてるんだろう二宮さんのくぐもった声が
「ウチの玄関の電球切れてンだわ……」
あの天井からぶら下がるレトロなソケット。
そんなのを思い浮かべてると 二宮さんが だぁー と髪を掻きむしって
「……おまえ 頭良いクセに 察しは壊滅的に悪いな」
チクと図星つかれて ムッとしてる間に
「だーかーら 電球買って……」
運転席に乗り込んだかと思うと 助手席の窓ガラスが下がって
「猫(そいつ)と一緒に……」
もうボトルカーは動いてて だから最後の方は
”……待ってろって言ってンだ”
そんな風に聞こえたのは 俺のご都合主義な脳内変換かもしれない。
けれど やたら早口だったり 目を逸らせて ポーカーフェイスだけど耳が赤かったコト、そんな諸々を照らし合わせて それは推測じゃないって結論づける。
「待ってろ?…二宮家でってコト?」
口の中で呟く俺に
”そうじゃない?”
歩道へ飛び降りたキジトラが振り返り 尻尾をしなやかに一振り
”行くわよ”
先導してやると云わんばかりにスタスタ歩き出す。
手のひらには 汗ばんだ500円玉と 二重リングの付いた鍵が一本。
胸の奥がソワッとなった。