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a faint

第49章 A-26


A’s eye

『恋人』と云うカテゴリーに区分された狭い檻の中。

一つ …… 二つ ……

これ見よがしに吐かれた溜め息の気配に 溺れ 藻掻き 足掻いてる俺を見て オマエは嘲笑ってる? それとも憐れんでる?

些細なすきま風に覚束なく揺らぐ灯火(ともしび)みたいな恋心。

迷い込んだ路(みち)の先は 乾いて 凍(い)てつく空虚な世界。

窮屈な手枷足枷に捕われ 身動きが取れない。

瞳(め)を閉じれば 何も聴こえないし 耳を塞いでしまえば 何も見えない。

だから

何も聴かないように 瞳を閉じて 何も見ないように 耳を塞いでる。

髪に 額に 瞼に 鼻に 頬に 耳に 唇へと 意味無く口づけていくだけの虚しい作業はキスの真似事。

外壁に触れる柔さと 内壁を暴く硬さの どちらにも翻弄されてしまう哀しいほどに脆弱でちっぽけな俺。

ぶ厚い硝子越しに会話しているように 口パクだけが宙をいきかう。

たった1ミリにも満たないその距離を 果てしなく感じてしまう切なさ。

救われたいからではなく どうしようもなく ただただ泣きたい衝動に駆られて 真実と現実に背ける。

そして 偽(いつわ)りと 瞞(まやか)しを詰めた薬莢が爆ぜた。

引き裂いて。

崩れて。

壊れて。

粉々になって蹲(うずくま)る渇いた俺を 吐き気がするくらいの嘘と 見え透いた愛で 丸め込んで。

今更『二人で在るコトの意味』なんか知りたくもないし 分かりたくもない。

無味無臭な時間の経過に怯え 涙して 懺悔する。

今夜も二日月が雨雲の端から 冷たい硝子に頬擦りする俺達を 覗き見していた。

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