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a faint

第50章 A-27


A’s eye

ハッとしたその感覚は どれくらいかは分からないけれど 寝ていたと云うコトに他ならない。

マネージャーからも 声が掛からず スタッフにも 呼ばれず ましてやメンバーにも起こさていない現状から 時間にしてそう大して眠っていたワケでないらしく ”居眠ってた” その程度だったんだろう。

とかく状況を把握しようと 辺りをキョロキョロ見回した途端 適当に閉められたカーテンの隙間から 無遠慮に射し込んでくる西陽(にしび)の眩(まぶ)しさに 反射的に目を眇(すが)めた。

その眩(まばゆ)さを 斜めに傾いてきた影が遮(さえぎ)り それはゆっくり俺の上に堕ちてくる。

逆光の中で口唇が重なり

「………ンゥ」

どちらからともなく漏れた息が鼻先でハモる。

タバコのヤニ臭さを後追いする微かなミントの香りと ヒドく怠惰で官能的なキスに 何故か泣きそうになる。

親指の腹が 目の下をなぞり 眦(まなじり)を拭う仕草に 知らず知らずに泣いてしまっていたのかと 錯覚してしまう。

頬に添えられた肉厚な手のひらの温もりの心地好さに吸い寄せられる。

細められた榛色(はしばみいろ)を湛えた目に ヒタと視線を合わせれば こちらを窺い 何処となく不安げな色を醸すその瞳。

言わずに 語らずに 表情を交わすだけで 感も 情も 十二分に伝え合えるのは 長年寄り添い続け 共感出来る部分が密に増えてきたからだ。

思わず口元を綻ばせれば 不意にダラリと下げていた無防備な指先へ 指がキュッと絡まった。

グッと手に力が入り 握り込まれた節(ふし)と節がギリギリとぶつかって軋み 鈍い痛みに顔が顰(しか)む。

「………」

縋(すが)るように呟こうとした声は 一方的で強引なキスに塞がれ かき消えた。

クッと喉の奥を低く鳴らすだけの忍び笑いに 影が微かに揺れる。

殺してやりたいくらい愛しくて どうしようもない激情に 今日も目眩する。

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