a faint
第51章 A-28
NATAXI
耳鳴りが酷くて なかなか寝つけず 気づけば真夜中をとっくに過ぎ どちらかと言えば 明け方に近い時間。
どうにかして眠気を誘おうと 寝返りをするうちに 頭痛までしてきた。
鈍くて重い痛みに ますます眠れなくなりそうで 溜め息を吐いた途端 隣から伸びてきた腕に 身体を抱きすくめられ
「……眠れないのか?」
低い声がして 手が髪を撫でてくれる。
(……にのみやさん)
声にはせず 口唇を少しだけ動かす。
二宮さんと俺は同棲…もとい 同居している。
正しくは 『Hoffnung』の二階にある俺の部屋に ”居候していると言え”…と がなる翔ちゃん。
二宮さんの所属する事務所との再契約を 松本さんから提言され 断ったその夜遅くに 俺の部屋へ突如転がり込んできた二宮さん。
当面の生活用品を詰めた段ボール箱抱えさせられた松本さんが 面目次第もないと云わんばかりな目で俺を見るので 断るに断れず 現在に至る。
髪を撫でられる心地良さに トロトロと微睡(まどろ)みそうになった途端 サイドテーブルに置いてあったスマホのアラームが鳴った。
チッと舌打ちして素早く身体を起こした二宮さんが それを止め
「……悪りぃ」
ごめん と呟いた口で 額に口づけられた。
早朝のモーニングをやっている『Hoffnung』の朝は早い。
ゴールデンタイムの番組復帰が叶わなず 幾分暇を持て余してる二宮さんに
「仕事無いなら 家賃代わりに仕込みでも手伝え」
エプロンを押し付ける翔ちゃんに対して 仏頂面な二宮さん…の双方が睨み合う一幕もあったけれど
「とかく この世はままならぬ 」
翔ちゃんから分捕ったエプロンを 二宮さんの頭からスボッと被せた大野さんの一声で 事なきを得たのは少し前の話。
今日は二宮さんの数少ないテレビ収録の日。
通知音がしてスマホを見れば
『23時』
否応無しの不遜なメッセージ。
この時間帯 30分もあればテレビ局に着く。
キッチンでご飯をレンジで少し温め 常備してある焼き鮭の解したのを真ん中に オニギリを二つ握る。
直飲みタンブラーに ほうじ茶。
2CVのキーとオニギリ、タンブラーを持って 部屋を出たのは22時半を少し過ぎてて。
「……ヤバ」
気は焦るけど 事ここに至っては安全運転。
アクセルをゆっくり踏み込んだ。