a faint
第54章 A-30
A’s eye
身体のホンの一部だけ触れていると云う その妙な感覚。
柔らかく紅い粘膜を チュと浅く吸ったり ヤワヤワと弱く啄んだりするだけのキスに 二宮がヒドく滾(たぎ)っていると感じるのは 硬くなった股間が当たっているからだ。
指を絡めたり 下半身の奥深くに欲を埋めて腰を振ったり 一分の隙もなくピタリと身体を重ねてるワケでもないのに そんな稚拙な行為で 興奮出来るなんて 大概安上がりに出来ているオトコ。
それでいて のうのうと寝たフリを噛ますニノミヤの鼻を 思い切り摘めば 3秒後に思い切り振り払われ その拍子に 危うい体勢だったオレの身体はベッドから転がり落ちた。
鈍い音に ニノミヤが慌てて謝る言葉とか それなのにシモは おっ勃てたままとか 目と耳に同時に入ってきた相反する不格好さと云うか無様さは 痛いと感じる前に可笑しさを誘う。
伸びてきた手が 心配して損をしたと云わんばかりに鼻を摘んでくる。
さっき生けたばかり…いや 空き瓶に差しただけの梔子(くちなし)の やけに白く重い花が放つ甘ったるい匂いが遮断された。
されるがまま 身動(みじろ)ぎせずにいると
「オマエを頂戴よ」
常に何処かしら何か物足りない顔をしているニノミヤの口癖。
「……何で」
やれるモノは 余すことなくやっていると云うのに。
”やれるモノ”を どんな風に受け取っているかはニノミヤ次第、オレは知らない。
ベッドの上へズルズル引き上げられ 口づけを甘受する。
抱きしめられ 背中が浮くのに任せて チカラを抜き カラダを弛緩させれば ニノミヤの口角が悦に入ったように ニヤリと上がるのが 癪に障る。
上向いた視界いっぱいに煙草の煙でくすむ見慣れた天井。
グシャンとクシャミしたニノミヤの飛沫が降ってきて 反射的に目を閉じた。
唾液 鼻水…汗 尿…涙 そして 精液……
同一個体からの体液なのに 遺伝子の素だけは体内に留め置きたいと思うオレは そろそろ末期症状なのかもしれない。
不確かで 不誠実で 不具合な愛。
多くは望まないけれど 少しだけ願ってみるくらいなら 神はどう思うのだろう。
熟れて 爛(ただ)れた 加速する感情の起伏。
「……寝れないのかよ」
言おうとした言葉。
ニノミヤに先を越された。
白い花びらがポトリと落ちて 外が雨だと 今気づいた。