a faint
第55章 N-24
N’s eye
「は?」
その言葉に 眼前に仰向けに寝転ぶオトコの顔を二度見し返せば
「だーかーらー…」
もう三十路も半ば過ぎたと云うのに 若者みたいな間延びした言葉遣い。
「上手な嘘吐きのオトコになりたいわ……」
”…って言ったのよ” と クネと品(しな)を作り チョンと尖らせた口唇からおネエな口調。
……………嘘?
危うく思考が停止しそうになる。
……嘘吐き…だと?
どこをどう考えて どの面を下げて どの口がを言うか。
『嘘』なんて曖昧模糊なワードと200マイルくらい縁遠いクセに。
無反応な俺に 業を煮やしたか ユラリと身体を起こし 短い溜め息。
グラス半分に減ったビールへ 手酌で継ぎ足しながら 盛り上がって縁から溢れそうに揺れる白い泡へ これ見よがしに紅い舌先を伸ばして ゆっくり掬い取る。
そんなエロい仕草を見せたかと思うと ソレをイッキに呷(あお)り プハッと豪快にアルコール臭を吐くと 今度はニヤリと男前に口角を上げて
”……タバコくれよ”
俺の咥えた吸いさしを強請るように見やってくる。
その落差、たまったもんじゃない。
ヤニ臭さが思いっきり混じった息を吹きかけ
”ばーか 誰がやるか”
拒否れば ブスくれた顔で
”……ビール飲も”
独り言ちる。
肩先に辛うじて引っかかっていた薄い肌掛けが重力に逆らわず スルリと落ち 仄かに灯してあったベッドサイドの灯りが 丸みを帯びた肩のシルエットを ぼんやり浮かびあがらせた。
スマホを不器用そうに片手操作しながら 数多(あまた)あるネットニュースのどれに引っかかって何に反応してるんだか百面相。
「……心中なんて死んでもイヤだわ…」
オネェな言葉で チロリと目の端に俺を写して
”…こんなオトコと”
言いたげな素振り。
グビグビと気持ち良い勢いで液体を嚥下するくっそ細い喉仏に親指をあてがい 残った指で首を包み込み ゆっくり締めて
”……クゥ”
震える喉が憐れな戦慄くのを 想像するだに興奮を抑え切れず えづきそうになるのを
「……なーに考えてんだか」
ピンと勢いよく弾かれた中指に ピシと額を打たれて 脳内妄想強制シャットダウン。
あぁ してヤラれたり。
確信犯のやるコト なすコト忌々しい。
親指のささくれを 歯で毟(むし)る 酷く怠惰で緩慢な熱帯夜。