a faint
第4章 A-01
NATAXI A’s eye
ひたすらボーッとしてるしかない待機中。
二宮さんから 相変わらず居丈高な物言いで
”16時に来い”
それだけ言ってプツンと通話が切れたのが2時間前。
ご近所に住む常連さんの通院送迎を終え 『Hoffnung』で遅くなった昼ご飯の支度をしようとフライパンを握った途端、間髪入れずにかかってきた電話。
あまりにも絶妙なタイミングに GPSか尾行でも付けられてるんじゃないかって あちこちキョロキョロしたのは二宮さんには内緒だ。
握ってたフライパンを置き 眉間にシワを寄せて渋い顔する翔ちゃんに ”ごめんね” と両手合わせ 店を出る。
呼び出されたテレビ局まで行くのにざっと30分。
16時には余裕で間に合うし 早く着いたら食べ損ねた昼ご飯を済ませてしまおうと メニューをあれこれ頭に思い浮かべながらシトロエンをスタートさせた。
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大きなガラスから陽が差し込む明るい1階のカフェ。
程よい温さと満腹感から ひっきりなしに湧いてくる欠伸を噛み殺し 気を抜けば転た寝しそうになる眠気を 頭をブンブン振って追い払う。
あの二宮さんからの傍若無人な電話の後 直ぐさま松本さんからフォローの電話が入った。
”トーク番組のゲストに呼ばれて その収録が16時前には終わりそうなので来て欲しい”
その指定された時間をもう20分過ぎている。
多分 何かトラブって収録が伸びているんだろう。
よくあるコト…仕方がないなと溜め息を吐(つ)いたのと同時に
”…ポンポン”
不意に後ろから肩を叩かれ ヒャッと飛び上がった。
慌てて顔を向けると そこには人気医療ドラマで ”失敗なんてありえない” と豪語する女医を演じていた女優さんが
「よ!ひ·さ·し·ぶ·り」
片手を上げて立っていた。
「あ、え……」
突然のコトに しどろもどろになりつつ
「……お久しぶりです」
どうにか頭をペコリと下げる。
スラリとした長身にサラサラの髪は前下がりのショートボブ、長い足の先に優に10センチはあるだろうピンヒールが似合ってる。
相変わらず颯爽としたその出で立ち。
ポカンと眺めてると ニコと笑んで細くなった目が
”座っても?”
そう聞いてくるから 断る理由もなくて 正面の空いた席へ ”どうぞ” と手のひらを向けた。