a faint
第5章 A-02
A’s eye
”この身が朽ち果てるまで アンタの傍に居てぇーわ”
クサい口説き文句をほざいてンのに ツイと目ぇ逸らすって 意味深つーか あざといっつーか。
掻き上げた髪の間から見える耳が 薄く桃色に染まってンのさえ ワザとだろ なんて疑り深く目を眇めて見てる俺も俺。
”オマエって 黒いな”
ニヤリと笑んで ヤラしく口角を上げる。
思わず 手にしてたビールを そのシレッとした顔面目掛けてぶっかけてやった。
缶から飛び出たアルコールは 思うほど飛び散らなくて ヤツの顎先を濡らしただけ。
チッ 面白くねー。
垂れた雫を忌々しげに拭(ぬぐ)って濡れた手の甲が 部屋の照明でテラテラ光ってる。
”……馬鹿じゃね?”
指先で弾かれたピスタチオの殻が ペシッと物の見事に俺のおでこへとヒットした。
痛った
やんややんや 拍手喝采 ざまぁと笑うアイツに
ムッと口唇を尖らせてみせても ただの足掻き。
皿から唐揚げを挟んだ箸が こっちに向かってご機嫌取り。
仕様がないから 口をアーンてしてやってもいいけど どうせ箸先はUターンしてくに決まってる。
思った通り 戻ってったソレはヤツの口の中へhole in one。
モグモグ咀嚼するのをジト目で睨んで ワザと涎をジュルルと啜(すす)って 喉をゴクリと鳴らす。
”うっとりした顔すンな”
箸の先が半開きの口の端を摘(つま)んでくる。
うっとりって何だ それ。
背を背(そむ)けると 肩ごとグイと引き寄せられ そっぽを向けば 顎をガシッと掴まれて 眼を閉じると 口唇にガブリと噛み付かれた。
口ン中を縦横無尽に隈無く好き勝手に動き回る舌が仕掛ける雄(オス)なキス。
雌なら確実に孕む……ンなワケないか。
はー やってらンねー 付き合いきれねー ホント 胸糞悪りー。
俺の髪を掴むその手 撫でる手のひら 梳くその指。
間違いないって 握ってくれた手は ホントにオマエの手だったかな?
勘違いじゃないって 絡めた指は ホントにアイツの指だった?
フェイク 偽(いつわ)り レプリカ 似非(えせ) デッドコピー 謀(はかりごと) 百花繚乱。
モザイクの掛かった未来。
小細工の蔓延(はびこ)る今日。
不細工に生きる明日も明後日も。
この身が朽ち果てるまで 俺もオマエの隣に在りたいわ。