a faint
第6章 A-03
A’s eye
「その場限りの愛でもいい……」
何処ぞの歌詞からパクってきたような 熱の伴わない感情を
”……オマエが欲しい”
重ねた口唇の隙間から 舌と一緒に流し込むように掠れた声を 俺の中へと封じ込める。
髪を梳く指先と 頬撫でる掌は 劣情を孕んだ卑しい熱を燻(くすぶ)らせ 鬱陶しいくらい熱いと云うのに。
そんなオマエには 素気(すげ)無い態度で返してやるのが 礼儀ってもんだろ?
覆い被さるアイツを 身動きせず 目線だけで見上げる。
こんなロクでなしを口説いても 碌(ろく)すっぽ良いコトなんてないのに……と胸内でボヤいたはずなのに 聞こえてる、と言わんばかりに肩を竦め
「良いも悪いも……」
何を今更、な溜め息一つ。
「……だから…とにかく…さっさと堕ちろ」
何が ”だから” で ”とにかく” なのか…今度は俺が肩を竦めてみせた。
それにしても こんな擦れっ枯らしの何処が良いのか。
生憎と俺はアイツじゃないから ヤツが『何を』考え 『何を』想っているかなんて分からない…てか 分かりたくもないし 分かろうともしないけれど。
よしんば聞いたところで 歯が浮いて 鳥肌が立ちそうなクサい言葉が シレッと返されてくること、請け合いだ。
「おい…」
不意に真上から落下してきた声に
「…『何を』考えてる?」
ゆっくりと頭を左右に一度だけ振る、”……別に 何も”と。
「そんなに集中出来ねぇ?」
俺の散漫さが気に入らなかったのか 急降下してきたのは性急で傲慢なキス。
雑で荒々しい口淫に口唇も 顔も 身体も 両手両足の先の先まで毒され 骨抜きにされた身体は 後はもうされるがまま やられるがまま。
どうでもいい どうにでもなれ…………
その場限りでいいと重ね続けた身体と 一時(いっとき)だけのモノだと委ねた情は 積もり積もって早二十有余年。
気づけば抜き差しならぬ深みとなって もう逃げるに逃げられず 身動きも取れず。
そう云えばコイツの二つ名『策士』だっけ?『悪魔』だっけ?
上手くしてヤラれたのかもな。
甘ったるい脳内麻薬 桃色に霞む視界。
苦し紛れに伸ばした指先を食むアイツの口元に 薄らと狡猾な微笑が見えた気がしたのは 多分 気の所為……そう きっと白昼夢。