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a faint

第10章 N-04


N’s eye

目と鼻の先も分からない 見えない 新月の夜。

カチンと甲高い金属音が鳴って 遅れて漂ってきたのは 焼けたオイルの匂い。

ボゥっと点った橙色の炎の向こうに フッと照らされた鋭利な顎先のシルエットと耳朶へと続く骨格。

その無駄なモノが削げたシャープなラインに少し伸びた無精髭…が やけにオトコ臭くて唆(そそ)られる。

中指と薬指に挟んだタバコを その手のひらごと 口に押し付けるようにして咥え 首を少し傾けて その先に火をつけた。

此方に向いているゴツゴツした骨と血管の浮かぶ手の甲が顔面の下半分を覆い そのデカさに見惚れる。

オスな手 オトコの手。

結露の滴る窓ガラスの向こうには 今にも消えそうな街路灯一つ。

不規則にチラチラする瞬(またた)きが 頬杖ついたアンニュイな横顔を 暗い空間に浮かび上がらせた。

ニコチン臭のする溜め息と紫煙を纏めて吐いた尖った口唇。

半分ほど吸ったタバコを 今度は人差し指と親指の先で摘んで 吸口を此方に向けてくる。

二度三度 啄むみたいに吸いつけば 花が綻(ほころ)ぶように口元を緩ませて 可憐に微笑い返すから 始末が悪い。

オンナな口(くち) メスな口(くち)

堪らず アイツへと伸ばした指先に パチンと爆ぜた静電気の青白い火花。

ああ ちくしょう

ククッとまたオマエが笑う気配がした。

街路灯は どうやら朝まで踏ん張りきれずに 事切れたっぽい。

真っ暗闇に二人。

そして オマエが見えなくなった。



















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