a faint
第11章 A-06
A’s eye
仕事中だったけれど ハラハラと舞い散る花弁に 思わず手のひらを差し出した。
一枚 二枚……
手に乗った途端 瞬く間に風が 一枚を攫っていった。
残った淡く色づいた花弁を じっと見ていると 真後ろから
「別れよう…」
聞こえてきた声に 足が止まる。
「…とか 思ったりしてンじゃね?」
振り返れずにいると
「図星……」
うんともすんとも答えないでいれば
「……当たらずとも遠からずってトコか」
ジーンズのポケットに手を突っ込んだままの二宮が 肩を竦め 溜め息を吐きながら セカセカと早足で俺を追い越した。
猫背が代名詞のクセに 其の実 意外にしゃんと伸びている背中が 目の前をズンズン歩いてく。
尻ポケットからはみ出してる革財布は いつだったか 記憶にないくらい前に 俺が贈ったヤツだ、多分。
革の色ツヤが良い風合いになったなぁ なんて そんなトコで 時間の経過を計ったりしてる自分のオッサンくささに 自嘲の笑いが出た。
「…何笑ってンだよ」
少し前で 俺を睨んでいる目に 何も発しないで ただ頭を左右に振ってみせれば 早送りみたいな足取りで 一気に此方へと間合いを詰めてくる。
伸びてきた左腕…の先の左手が いきなり胸倉を掴むから
”衣装なのに……”
シワになるとか 撮影中なのにとか どうでもいいようなコトを思った一瞬の間に グイと引き寄せられた。
後頭部を二宮に抱き込まれたまま 動けず 動かず数秒、背中をポンポン叩かれ そっと息を吐いた。
少し低い肩に顎を預け 今 歩いてきたばかりの川縁の遊歩道へ目を向ければ 風花みたく花弁がまたチラチラ舞っている
「アンタはなんで直ぐに そう云うネガ……」
二宮の声へ被せて
「……いつものコトじゃんか」
即答。
今に始まったことじゃない。
仕方ないだろう 生憎とそんな消極的思考回路しか持ち合わせてないんだから。
フフッと笑ってはみたものの 目頭が熱くなるのはどうしようもなく だから ワザと鼻を大きく啜るフリしながら 二宮の肩先に顔を押しつけた。
「……衣装なのに」
似たようなボヤきが 胸にストンと落ちてくるから
「……で?」
「………………………今は 別れない」
まだ 顔は上げてやらない。
何処からとも無く 花の薫りがした。