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a faint

第14章 A-08


A’s eye

「アンタ 何見てンだよ」

郊外の緑地公園でのロケ中 ゲリラ豪雨を回避するのに メンバー スタッフ合わせて十数人で急遽 飛び込んだのは 隣接する総ガラス張りの巨大温室。

櫻井、松本と大野の三人はスタッフと 四阿(あずまや)を模した簡易休憩所の方へ移動したらしく 傍には二宮しか居ない。

「……雨」

激しさの増した雨粒が 丸いガラスの天井を容赦なく打つ喧(やかま)しい音は アノ日 アノ夜 アノ空間へと俺を シンクロさせる。

あの忌まわしい出来事は 薄暗い水底に何層にも重なり沈殿する腐った枯葉のように 俺の胸の内に巣食い ジクジクと膿み続ける。

いつになっても瘡蓋(かさぶた)の出来ない剥き出しの疵痕。

まだ セクハラやらパワハラなんて言葉が台頭してなかった頃 番組を仕切るヤツらに レギュラーの座を盾に 逆らうコトも 抵抗するコトも封じられ 良い様に犯(や)られていた俺。

呼び出され 餌食になるのは自分一人だけで どうしてこんな酷い仕打ちを受けるのか、要因も 原因も 何一つ分からないまま 泣いて 喚いて 散々嬲られた。

身一つで放り出され 動くのも億劫で 降り出した雨と 稲妻の閃光が 天井を照らすのを ただただぼんやり見上げているみっともない俺を

「ごめん…遅くなった」

いつも申し訳なさげに 助けにきてくれるのは二宮だけ。

だから 縋ってしまった、ヤツがほくそ笑んでるのも知らずに。

二宮と云うオトコの異様と云うか 異常なまでの俺への執着心と傾倒っぷりは あちこちでその片鱗を垣間見るコトはあっても 直に何かアプローチされるコトはなかった。

程よく猫をかぶって懐くアイツが 裏で糸を引いていただなんて 毛ほども思わず まんまと手中に堕ちた俺は ある意味 狩りやすい獲物だったのかもしれない。

悪いオトコの罠に うっかりハメられた。

「おい」

呼ばれるままに意識を其方へ傾けると

「目 瞑れよ……」

言われたのと同時に 二宮の小さな手が 俺の耳を塞いだ。

視覚と聴覚が遮断された途端 ビリリと地鳴りにも似た轟が 空気を震わせた。

”……落雷”

詰めていた息をふぅと吐いた口唇に 二宮が口づけてくるのを 黙って受け止めた。

苦しくて 狂しくて…苦しみが狂しみとなって 吐き気を催しそうだ。

そんな自虐的一例。

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