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a faint

第15章 N-06


N’s eye

人の手を介した花 鳥 風 月 百花繚乱。

全て紛(まが)いモノで構築した世界に ヤツを閉じ込めてみようと思ったのは 単なる戯(たわむ)れ。

目障りで 耳障りの悪い雑魚を 全部排除した密な空間は

『箱庭』

そんなせせこましい名称が見合う。

その真ん中で 大の字になって仰向けに寝転ぶアイツ。

首元にぶら下げた小さな鈴を 指で弾けば 玲瓏として響くその音色は 正に彼にそぐう音だ。

薄緑の球形は 何処にも割れ目のない不思議な作りをしていて 奏でられる冴え冴えとした音は 水琴窟とやらを模しているらしい。

いつの間にか 身体を起こしていたアイツが 俺を見上げていて その真っ黒な虹彩に自分の顔が映るのを見たくなくて 思わず半歩 後退ってしまう。

それを咎めるように 綺麗な二重の眼が細められ その双眸からも逃れたくて 顔を少し背け 代わりにグラスを手渡した。

目覚めて 最初の一杯は ブラッディメアリー 一択。

紅い液体をクイッとひと息に飲み干し 濡れた口唇を舌先でペロリと舐める様は まるで吸血鬼だ。

そして

”……クフン”

鼻を鳴らして 微笑うのがお決まり。

ぜんまい仕掛けのブリキの鳥が甲高く鳴き コントロールされた風に ハラハラと舞うシルクの擬似花弁。

その一片を掴もうと 伸ばされた指先の爪の艶に 目を奪われる。

”獰猛な眼……”

口唇が音にならない吐息を紡いで

”……優しいくせにね”

口角をちょっと上げ 気怠げに横になると 素っ気無く此方へ背を向ける。

俺からは見えない視線の先は テーブルの端に置かれたニキシー管が並ぶオブジェを 捉えているのだろう。

小さな管の中に ジジジッと紅く発光した3やら4の数字が浮かび上がり それが無作為に 5になったり 0になったり 意味もなく ただ切り替わっていくだけの奇妙なオブジェ がヤツの気に入り。

さあ もうそろそろ時間切れだ。

とりとめのない思考を遮断し 欲張って 頬張って 濾過し切れず沈殿した悔恨の時間を 撹拌して 現実に戻るとするか。

抱えた右の膝に頬寄せ 隣りにうつ伏せて眠るヒトの 後ろ髪を手で梳く。

ニコチンとタールのキツいタバコを燻らせ 温くなったアルコールの炭酸で 喉を湿らせながら 己の果てない独占欲を満たす…そんな夢みたいな妄想を 繰り返す切ない夜。


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