a faint
第16章 N-07
N’s eye
ご機嫌斜めな不貞腐れオトコが 俺の膝枕で 涎垂らして 寝ていると云うシュールな絵面。
仕事帰り、送迎車の後部座席で ホンのちょっと声のトーンを荒らげたら このざまだ。
俺のコトを 誑し(たらし)とか 何とか 尻軽だって目くじら立てるけど 人見知りとか 引っ込み思案を盾にしつつ 上手く靡(なび)いて 適当に渡り歩くオマエも大概 蓮っ葉で 誑しだろ。
片っ端から…と云わないまでも 週三?四?は誘いに乗って あっちへフラフラ こっちにフワフワ。
アルコール入る前から 既に千鳥足って どうよ。
何処かの 誰かさんの 助手席にお邪魔したり 何処ぞの 馬の骨の タンデムシートにしがみつく。
アイバ中毒者をあちらこちらに蔓延(はびこ)らせる温床の正体は『万年無自覚小悪魔』。
俺の血の滲むような 牽制も台無し 威嚇も水の泡にしやがって。
………少々 おいたが過ぎやしませんかね?
腹に据えかね 窘(たしな)めれば 拗ねて 不貞寝。
ルームミラー越しに見えるマネージャーのチラチラ視線がチリチリ痛い。
完っ璧 俺 悪者扱い。
結果 折れるしかない。
そんな不埒なオトコを 伊達や酔狂抜きで好いてしまったンだから 俺の分が悪くなるのは否めない。
仕様がないから ご機嫌取りの言葉を
”いつまでも 怒ってないでさ……もういいだろ? 拗ねンのも……”
優しく胸の内で呟きながら
「……そろそろ 終わりにしよう」
言葉尻だけ音声ONにする。
途端に 膝の上の頭がグルンとこっちに仰向いて
「終わりって……何?」
見開いた眼が やっと俺を捉えて
”……ヤダよ”
掠れた声が震えてる。
両腕で腰に懸命にしがみついてくる必死さが堪らない。
為て遣ったり
ゾクゾクするわ、ずっとそうやって俺だけに縋ってろ。
勘違いバンザイ
マネージャーが呆れて零す溜め息を耳にしながら ほくそ笑みたくなるのを 奥歯噛み締め 耐える 耐える。
そんな嗜虐的自己満足。