a faint
第20章 N-09
N’s eye
「甘いの? 辛いの?」
衣装の上に羽織った白衣の肩周りが やけにブカブカだったのを 懐かしいDVDを見て思い出す。
あの頃から痩せぎすの体躯だったのは 今も変わらない。
唐辛子と砂糖を同量、湯に溶いて味見すると云う危なっかしい謎の実験が デカい画面に流れていくのを ソファーに寝転びながら ラグに胡座をかく相葉さんの小っさい頭越しに眺めた。
あれから 何年一緒に過してきたンだろう。
邪気無く笑う俺ら五人がテレビの中に居る。
「……若いな」
ン?と振り向いた相葉さんに
「若いよな 俺ら」
も一度念を押すように繰り返せば ニュっと伸びてきた指先が 俺の無防備な小鼻を摘んだ。
フガッと鼻を鳴らして振り払い
「何すんだ」
一睨みすれば ニャハと変に相好を崩して
「なんですか~?」
エア虫眼鏡して覗き込んでくるから 睨みきれない。
画面の中と寸部変わらない目の前の笑い顔には 目尻のシワが あの頃より少し深く刻まれている。
「茹で卵 食いてぇな」
巫山戯て言ってみれば
「ぬか漬け?ソース味?」
間髪入れず返してくる相葉さんの向こうでは タイムリーにソースな茹で卵を吐き出してる俺が映ってる。
「……擦れたよなぁ」
テレビと俺の顔を一往復しげしげと眺めて 溜め息を吐くから
”お互いさまでしょ…”
軽くボヤいて 遅ればせながらさっきの仕返しとばかりに 鼻を摘み返して
「…いいオトコになったって言うんだよ」
缶を傾け 残っていた温いビールを一気に煽る。
苦いだけだったアルコールが 美味いと思えるようになるくらい年月を積み重ねてきたんだなと 感慨に耽っていると
「どした?」
妙な察しの良さで こっちへと首を回す相葉さんの黒い瞳がヒタと俺を凝視する。
何だか持て余し気味の気持ちを見透かされてしまいそうで はぐらかすように目の前のサラサラの髪をグシャグシャに手でかき混ぜれば
「何すんだ」
尖る口唇に チュウと口づけ
「なんですかー?」
真似て言い返せば 途端にケタケタと甲高い声を上げて破顔する。
俺もなんか妙に可笑しくなって 意味もなく空の缶を ”カンパーイ” なんてぶつけた。
テレビの中の相葉さんが
『実験結果 みんな楽しそうでいいね!』
……ったくだよ オレもオマエも楽しいわ 昔も 今も。