a faint
第21章 A-11
NATAXI A’s eye
文字にすれば
「姐さん…」
まさにソレがピタリと当てはまる。
こちらへ向いていた彼女の視線が 少し逸れたから 俺の後ろに誰かが来たんだろうと 察しはついていたけれど。
地を這うような低い声が 背後からして
「……横恋慕は止めてくんない?」
声のヌシに両肩をガシッと掴まれた。
「二宮…」
「二宮さ…」
二つの声が綺麗にシンクロして 一瞬 間が空いた後 プッと吹いて アハハと笑ったのは彼女のが先。
「横恋慕って…いつの時代の言葉よ」
「昭和ですけど?あら ご存知ない?」
「エラそうに……出戻り新人のクセに」
愛のある棘だと分かっていても棘は棘。
チクチクやり合う二人の止まりそうにないやりとりを 傍で聞いているこっちの身にもなって欲しいて思う。
ヒートアップしていく言葉の応酬に 俺のハラハラ度も右肩上がり。
周囲の目もそれに合わせて なんだなんだとこちらを向き始めるから 思わず焦って 肩を掴んでいる二宮さんの袖口を クイッと引っ張ってしまった。
”ぁん?”
その手を見て 視線を俺へと向けた二宮さんは 周りにチラと目をやり 俺が何を言わんとしてるかを上手く感じ取って 表情を営業モードへと一変させた。
さりげなく口を噤んだのは パブリックなイメージから脱線気味の自分の言動に気づいたからだろう。
「あー もう…」
紅い口唇をツンと尖らせた彼女は
「……アイコンタクトなんかキメちゃって」
肩を竦め
「しっかりちゃっかりお手つきかぁ ざぁんねん」
”あーぁ” と つまらなさげに云うほど 大してガッカリ感も 残念感もない口ぶりで
「その気になったら いつでもウチのオフィスに連絡頂戴」
綺麗にウィンクして 残っていたコーヒーを一気飲み。
”そんな気にさせねーから” とボヤく二宮さんには ビシッと指を突きつけて
「二宮……早く陽の当たるトコに出ておいで」
”べーっ” と舌を出して 艶(あで)やかに笑う。
意気揚々と出ていく後ろ姿へ
”……受けて立ってやろうじゃん”
グッと拳を握り 凛と引き締め締た顔で独り言ちる二宮さん。
そんな二人に見惚れていると
「…帰るぞ」
凄みのある声に 慌てて荷物を抱え 腕を引き摺られるようについて行くと
「……誰にも渡さない」
小さな呟きが聞こえた。