a faint
第24章 N-10
N’s eye
帰った途端 ババッと威勢よく服を脱ぎ出したのは オレの情人。
ふと手を止め 最後の一枚を躊躇(ためら)い 俯き 爪を噛んで はにかむのは 一体何なんだ。
妙な沈黙 一秒 二秒 ……
三秒カウントする前に ハラリと床に落ちた白いシャツ。
こっちへ向いたままの背中に ほんのり浮かび上がる肩甲骨と痣
自分を抱き締める様に両の手で包んだ肩先を 少し竦めて 肩越しにこちらへチラリと向けるあざとく憂いを含んだ眼差し。
幼女みたいな 潤みを湛えた黒い瞳と 仄かに紅く染まった眦(まなじり)から 寄越す流し目は 遊女のよう。
”たまには なりふり構わず 好きなように嬲(なぶ)って”
そんなタチの悪い誘い文句 誰に教わった? 何処で仕込んできた?
唆(そその)かされ 煽(あお)られて 伸るか反るかは俺次第
誘われ……誘惑 ユーワク
魅せられて…魅惑 ミワク
その眩(まばゆ)さに…眩惑 ゲンワク
誑(たぶら)かされ…誑惑 キョーワク
そして 溺れた…溺惑 デキワク
惑わされた愛情は 戸惑う哀情を孕み
狂わされた恋情は とち狂う憐情と交叉し
乱された劣情は 下乱れる裂情に成り果てる。
一方向へと注ぐ盲目的愛と 多方向へと放つ理性的情を天秤に掛け そのどっちつかずに揺れるアンバランスな際どさを オマエは悪どい笑みを浮かべ 眺めては 悦に入る 。
卑猥で 卑怯で 卑劣で。
オレを飲み込み 腰を振って 声を上げ 扱(しご)いて 昂(たかぶ)り 極まって 硬くそそり立つ先から 解き放たれた白く生臭い体液。
欲滓をだらしなく散らしたまま 間抜けなイビキをかいて 寝穢(いぎたな)く 眠りこけてンじゃねぇわ ホント 身勝手 オマエって。
そろそろ 起きろ
”……………Who are you?”