a faint
第26章 A-14
A’s eye
同じ言葉を二宮さんは二度繰り返さない。
”はい はい”
とか
”悪い 悪い” ”ごめん ごめん” ”嘘?つかない つかない”
とか。
二度三度と繰り返される言葉は 繰り返された分だけ 気持ちが希釈されてしまうような気がする。
それは俺を蔑(ないがし)ろにされてるみたいな気になってしまって 何だかなぁと思うコト 多々あり。
二宮さんの受け答えは 頷くか黙(だんま)りのシンプルさ。
コーヒーカップの縁に口唇を当てがい ちょっと上目でこっちを見る可愛い仕草の松本から
「あのヒトの性分だから 無駄に言葉を発するコトが 単に面倒くさいだけなんじゃね?」
思わぬ鋭いツッコみに 若干怯(ひる)む。
二宮さんのあの端的な物言いを ”面倒くさげ” と片付けられてしまうのは 否めない。
それがある意味 合理的なあのヒトらしさなんだ と そんな風に胸内で折り合いをつけてる俺も俺。
「何でもかんでも 惚れた欲目フィルターに掛けやがって」
コーヒーを飲みながら 松本が茶化すのに べぇ と舌を突き出し 仕返せば
「そう云うのは ”惚気” っつーンだ」
そう言って 人差し指突きつけて バッサリ一刀両断。
「話聞いてくれって言うから何事かと思いきや……」
溜息一つ吐いては
「……俺は一体 いつまで与太話を聞いてりゃいいんだ?」
苦笑いされてしまう。
「だってさ……」
あのヒトの素っ気なさを そんな風に脳内変換しないと 何だか心許無いんだ と 正直に云えば
「……ったく 愚痴りたいのか 惚気けたいのか」
軽く手を振って
「独り身の俺からすれば 惚気オンリーって感じだけどな……酸いも甘いも贅沢な悩みだ」
デコピンを見舞われ あしらわれる。
地味な痛さに おデコを手のひらで 擦(さす)りながら ジト目で松本を見遣れば
「……で」
視線の先に差し出されたのはUSB。
「どうする?」
一瞥して ”要らない” と頭を振れば ”了解” と云わんばかりに松本は肩を竦めた。