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a faint

第27章 N-12


N’s eye

三日前……

腰をラグに下ろして ソファーに背中を凭せかけ座るのがアイツの我が家での定位置。

胸元へ脚を引き寄せ 小さな膝小僧を抱えて 踵を毛足の長いラグの中へ押し付ける様に埋めると 爪先をピンと上げる。

まだ乾かしてない髪、細い毛束の先に揺れる雫が 一つ…二つ…三つ四つ。

爪切りは湯上がり五分以内ってのがマイルールなんだと豪語するのを耳にしたのは随分と前。

”ふやけて 柔らかくなったら切りどき”

聞きもしないのに鼻歌交じりにそう返され ふーん と鼻先で返事したか しなかったかは 今となっては忘却の彼方だ

パツ…パツ…と爪を切る音 俯く横顔 上唇をペロと舐める仕草。

それを ゲーム画面から視線だけズラし 悟られずに チラと盗み見る技は 我ながらもはや神レベルの域。

指先に神経を集中させると口唇が尖ると云うのは よく聞く話で 言わずもがなヤツも 案の定 口唇をツンと上向きに尖らせている。

そんなひょっとこみたいな間抜けな口元に セックスアピール感じる俺も俺。

ともすれば不埒な想像逞しく エロい妄想へ傾く脳内変換を イカンぞ と窘(たしな)める。

切りそろえた指先を グーパーするみたいに曲げ伸ばしして うん よし! と結構なボリュームな声は 当の本人は呟いてるつもりの 所謂独り言だから 反応はしないでおく。

二日前……

カレーは飯とルーを軽く斑(まだら)に混ぜ スプーンにこんもり盛ったのを 口へ豪快に放り込んで 大体三分の一 食ったあたりで ハッとした顔になるのが常。

今日も今日とて そんな顔するから 冷蔵庫からトッピング用の卵とウスターソースを出してやれば 親指を立てて ”グッジョブ” なんて可愛い顔しやがる。

本日……

マウスウオッシュは 先ずは右に五回、左に移って五回、全体に回しながら ゆっくり十数える。

口の端から垂れた液に タオルを押し付けてやりながら 押し倒したくなるのを グッと堪(こら)えるのはいつもの事。

ヤツの一挙手一投足から 吐く息の行きつく先まで 目を光らせつつも 態度は素っ気なく 無反応 無関心を装い 執着心はさりげなく がモットー。

十何年もそうやって過ごしてきて 年々 粘着質さに拍車が掛かろうが 止める気なんか毛ほどもない。

そんな愛すべき相葉雅紀観察日記 とくとご堪能あれ。

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