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a faint

第28章 N-13


N’s eye

その好意を その行為を 言葉にするとすれば 何が妥当なんだろうと思う。

失くしてしまったのは あやふやで不確かなその垣根。

堕ちてしまったのは 気だるくて甘ったるいその感情。

絶えず 引いていた一線は まるで砂地に引いた白線みたいな 足の裏で擦れば 消えてしまう そんな曖昧さで あっという間に有耶無耶になった。

長くしなやかな脚を 優雅に組み 優美な挙措で コーヒーカップを 口に運ぶと 一口含んで 一秒遅れて 吐息に混ざった掠れた声を漏らす ……熱い と。

ツイと流された視線の先のテーブルで 瞬いたスマホの真っ平らな画面には 何が写ってるのか。

俺のスマホに『あ』と打てば アンタのフルネームが 真っ先に変換されるほどに 俺はアンタが好きなんだけれど アンタのスマホの『に』は 何て変換されンだろう。

くだらない思考の向こうで スマホへ向けれてる 微笑う口角と 優しげな眼差しが忌々しくも 羨ましい。

その些細な一挙一動は 視覚も 知覚も 聴覚も 何もかも奪い 内に燻る劣情を滾らせ 俺を容易く溶かすほの温かい体温や 俺をしっとり包むあえかな皮膚が 欲しがらせる。

四六時中 一分一秒 全てオマエに捧げてやるから 全身全霊 髪の毛一筋 切った爪まで 余すこと無く オレに寄越せ。

ガクガクと震える身体 タラタラと垂れる雫

ハラハラと溢れる涙 ジクジクと疼く昂り

好きと云えば 弛緩して 愛してると囁けば 収縮する その単純明快な身体。

自由 不自由 愉快 不愉快 自然 不自然

澱んだ青臭い空気 煮詰まった珈琲の饐(す)えた匂い 焦げたニコチン臭さと。

何も無くて 何でも無くて 何が良いのか 何でも良いのか

連れていかないのならば 着いていくし 離れていくのならば 追いかけていく。

フラフラ ユラユラ クラクラ イライラ

気づけば その無防備な手を引き 腕(かいな)の内に 痩躯をかき抱いた

入りたい 埋もれたい 入れたい 埋(うず)めたい

離れた二つの濡れた口唇の間で 舌先だけが離れない。

海月(クラゲ)みたいな月が 真昼の宙にボンヤリと浮んでみえる。

まるで 白昼夢か蜃気楼 はたまた陽炎か。

腹筋の割れ目を 指でなぞり 臍(へそ)を擽(くすぐ)る 。

ゴクリとモノ欲しげに喉を鳴らしたのは どっちだ?

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