a faint
第30章 A-16
A’s eye
「狂ったように 抱いちまいそうだ」
雑な口ぶりのわりに 身体を這う手は 遠慮がちで
「酷くしそうで ヤバい」
獰猛な目付きなのに 口づけはソフトで
「俺の傍に居な」
熱っぽく云うくせに 素気無く手を振り払う。
オマエの一言一句と オマエの一挙一動に 一喜一憂する単純な俺。
悪い顔して
「アイツとの仲が 『試用期間』と嘯(うそぶ)くなら 俺のコトも試せよ」
片頬をニヒルに吊り上げ
「味見だ 味見」
中指立てて
「割り込み上等」
火照ったキスを噛まして 煽ってくるのが 始末に負えない。
髪を梳く指が 歯を舐(ねぶ)る舌が 肌を滑る手が 何かを探って 探して 探り倦(あぐ)ねている。
細めた瞳に ギッと射貫かれ
”……早く 来い”
言わんばかりに 顎がツイとしゃくられる。
誘われれば 断る理由なんて そんなの持ち合わせてない。
求められたい 愛したい
愛されたい 求めたい
不透明なリスク 不機嫌なオトコ
濃いタバコの匂いと 微かなアルコール臭、そして 仄かに漂う薄荷とベルガモット。
もっと もっと もっと もっと……渇望する。
感情の羅列 欲望の螺旋 メビウスの輪
慰み者へ慰め顔
下半身に収まった暴君が 情け容赦ない膨張率で 本能のまま 俺を翻弄する。
ギシギシ軋む背骨の音と ギリギリ歯を食い縛る音、グチグチと粘着質な音が掛け合わされた淫らな三重奏。
爪先がシーツを手繰り 腰は小刻みに揺れ 喉がか細く啼いた。
「……ヤり殺してやる」
そんな物騒なセリフには
「……ヤれるもんなら ヤってみな」
それを口にしたが最後 取り返しがつかない…いや 最初(はな)っから 取り返しをつけるつもりなんて毛頭ない、いわゆる俺なりの誘い文句
伸ばした手の先 伸びた爪が壁をカリと僅かに引っ掻いた。
たとえ この劣情の結末が 泡沫になってしまおうが 羽根となってもげてしまおうが 二度と目覚めを迎えなくとも 指を絡め 手を握り 腕を抱いて 眠りにつこう。
だからさ 甘やかすなよ ダーリン。