a faint
第31章 N-14
N’s eye
「…カズのふくらはぎ ひゃっこーぃ」
間延びした物言いは幼稚園児か百歩譲っても小学生レベル、強いて言うなら 思いっきり平仮名の羅列。
熱い裸足を 遠慮のえの字の欠片もなく ペタリと俺の脹ら脛に貼り付け フハァ とアルコール混じりの脱力感満載な息を吐く。
こうなるのは 今から半刻ほど前 玄関で靴を脱いだ瞬間に予測済み。
日付変わる寸前に 揃って仕事から帰宅。
取るものも取りあえずバスルーム直行で シャワー浴び…コイツの場合 風呂に浸かって 約20分弱。
濡れ髪に腰タオル一枚の ほぼほぼ全裸みたいな格好で
”……耳に湯入った”
独り言ちながら 片足でピョンピョン跳ねて 冷蔵庫へ突撃するのはいつものこと。
いそいそと嬉しげに 取り出(いだ)したるは キンキンに冷えたビール。
”半分にしとけよ”
言う間もなく 缶はググッと傾けられ
「オマエさ そんなイッキに……」
「…ン?」
目玉だけをクルリとこっちに寄越した時には 既に遅し。
一缶分の冷たいアルコールは 一瞬で胃へと収められていて 空になった缶が クシャリと握り潰された。
いくらクーラー効かせて 肌表面をクールダウンさせたところで そんな一息にアルコール摂取すれば 体温が右肩上がりになって 後から寝苦しくなるってのが想像つかないか?
ただでさえ高い体温保持者のくせに。
隣で俺がこれ見よがしにペリエ飲んでる意味、皆目分かってないンだ。
そんな俺の心中なんて慮ってくれる訳もなく
「カズ…寝よー」
ホワホワと欠伸混じりの声に 呆れた溜め息を返すしかない。
仄かに灯した橙色の明かりの下 ベッドに寝っ転がって ともすれば甘い雰囲気に持ち込んでやろうかと 左手を伸ばした途端
”……ショリショリショリ”
やっぱり始まった。
音の出所に目をやれば 案の定 両足の親指と親指を意味無く擦り合わせる音。
火照った身体の熱を持て余してのコトなんだろ 言わんこっちゃない。
そんなので 熱が発散するわけがなく 俺にしてみりゃ ただ五月蝿いだけ。
やり場のなくなった左手の指先で しょうことなしに脇を突っつけば
”ひゃは~”
ムードぶち壊しの奇声を発して 俺の脹ら脛に足をペタリ。
あー 今宵も清く正しく美しく 眠るしかないのか。
日々是好日 真夏の真夜中の攻防。