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a faint

第32章 A-17


NATAXI A’s eye

「…で?」

カウンターの端で 大野さんがズズッと音をたてて コーヒーを啜る。

少し火傷したのか 冷ます様にレロレロと舌先をちょっと突き出して

「それぞれが めでたく収まるところに収まった…と」

デカくて長い溜め息と一緒に ”めでたしめでたし” 棒読みな言葉と 単調な拍手がパチパチパチ。

そんなベタなオチは要らない と云わんばかりの仏頂面から放たれてるこっち向き…と云うか 俺をピンポイントで睨(ね)めつける眼が痛い。

おっかない視線は さり気なく 身体を少し斜交(はすか)いにズラして躱すのがベター。

そんな大野さんに捕まったのは

「お気をつけて」

常連さんを駅前まで送り ”行ってらっしゃい” と手を振りながら 頭を下げたその後ろで ドアが閉じた音。

振り返れば 後部座席に見知った顔。

鎮座ましましてるのは

「…大野さん?」

伸びてきた手が 勝手知ったると云った調子で 表示機を『貸切』へ変え

「『Hoffnung』まで」

優雅に足を組んで シレッと言う。

こうと決めたら梃子(てこ)でも動かないヒトだ。

言われた通りに店へ連れていくしかないだろう。

俺があのラボから出るのと入れ違うように 店へ顔を見せなくなっていたヒトが 何の予告も無しにフラリ登場して 悠々と後ろに座ってると云うこの状況。

驚きを隠せないまま ルームミラー越しに目をチラとやっても 無表情の大野さんからは何の反応もなく 店まで続きそうな沈黙に耐えかねて

「……面白くない展開だった?」

口火を切ったのは俺の方。

”さあ 何のコト?”

そう云わんばかりに無言で肩を竦め 横髪に触れる大野さんがミラーに映る。

髪を後ろへと撫でつける仕草は このヒトが平静を保とうとしている時に出るクセなんじゃないかと 俺は認識してる。

だから 強めに

「そうやってはぐらかす」

言い返せば やっとニヤと笑われだけだ。

あの一件以来 俺に対して向けられる大野さんの目が 観察眼となったコトに早くから気がついていた。

だから 今の 何となく大団円的な収まりは 研究者 大野智的には面白くないはず…と云うのはお門違いだろうか?

「そんな小難しい顔するなよ」

店の近くで止まった信号待ちで 大野さんの人差し指に 後ろ頭を小突かれた。



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