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a faint

第34章 A-19


A’s eye

何処からか流れてくる18時を知らせるメロディー。

それに合わせて か細く歌う声が

♪夕焼け小焼けで 日が暮れて――♪

山のお寺の鐘が鳴る代わりに 救急車のサイレンが遠くに聞こえてた。

高いビル群の向こうへ ユラユラともう半分以上も沈んでる夕陽。

タワーマンションの最上階…と まではいかないけれど それなりに空が近いベランダの一角。

眼鏡のフレームの下から突っ込んだ指で擦った目を 茜色を含んだ雲へと眇(すが)めて 煙草を燻(くゆ)らせてる猫背なオトコ。

口は 紫煙を吹き出すだけで 黙(だんま)りなクセに ”構え” やら ”抱きつけ” だのと背中は雄弁。

そこは敢えて無視する所謂 ”放置プレー”

カーテンを シャッと乱暴に音を立てて引き 見て見ぬふりを決め込む。

ソファーの上に胡座をかいて 手にしたスマホを弄(いじ)る。

メッセージアプリをタップして………

…………………………………………………!!

不意に膝下から先が ビクンと宙を蹴り上げ ハッとして 寝オチてたコトに気がついた。

窓から入っていた陽射しは既に無く 明るかった部屋は暗い。

胡座をかいていた身体は ソファーに寝っ転がっているらしく 腹の上にあった手が脇へ滑り落ち 何かに当たった。

その硬い感触を探ればスマホで 覚えてるのはトーク画面を開いた辺りまで。

その画面までも すっかり暗い。

無操作で三分 放置してれば消灯になる設定…つまり三分は確実に寝てたってコトだ。

視線を巡らせ 目を凝らす。

そうすれば暗闇に侵食された部屋の中でも どうにかこうにか様子が見えてくる。

風を孕み 膨らんだカーテンの向こうに 少し削れた月が昇ってきた。

窓を背に ぼんやりした月明かりに浮かぶ細身のシルエット。

ゆっくり身体を起こした俺の元へ その影がヒタヒタと寄ってくる。

顔がよく見えなくても 嗅ぎなれたタバコの匂いがする。

「……夕焼け小焼け見てたンじゃなかったのかよ」

カラカラに渇いた口から どうにか絞り出した声。

あやふやな距離感と曖昧な視界に募る不安感。

堪らず そっちへ手を伸ばせば

「ンなの とっくに沈んだわ」

不貞腐れた物言いと 離さないと云わんばかりにキツく掴まれた指先。

なんだ…放置されていたのは 俺の方だったのか。







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