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a faint

第38章 A-21


A’s eye

子供の頃、大人が泣くのを見ると 酷く居た堪れない気持ちになって 尻の辺りがムズムズしていたコトを 不意に思い出したのは なんでだろう。





一年をかけて熟(こな)してきた結成20年を記念するライブツアー。

それもまもなく終盤戦を迎えるにあたり 少し間が空いてしまったから振り起こしをしないか と提案したのは 意外にも振りつけの覚え良く 忘れないであろう二宮だった。

ただ 揃うことはなかなか叶わないにしても 前向きな気持ちに 一も二もなく挙手したのはメンバー全員。

各自 空き時間にスタジオで踊りを復習(さら)え 会えば互いの近況を報告し合おうと決まった昨日今日…で いきなり明日は タイトなスケジュールの中 なんだかんだで五人揃うらしく

『…だったら インフォメーションの確認し直そう』

松本からのメッセージが スマホのグループトークに届いた。

前後左右 跳ねてしゃがんで 三十分 一時間……練習時間も佳境に差し掛かった頃。

ステップの踏み込みが甘く 微妙に空いた間合いを埋めようと 少し大きくターンしたのが 仇となった。

余計に回った分 隣りで踊る櫻井に肩をぶつけ よろけた拍子に落ちてた汗に足を取られて 物の見事にすっ転んでしまった。

咄嗟に誰かのシャツを掴んでしまい

「……うあっ!!」

その”誰か”が大野だと分かったのは 隣で尻餅をついたのがその人だったからで 見ると弾みで口唇の端を切ったらしく 血が滲んでいる。

「 ごめん リーダー」

慌てて平謝りすれば 頭をポンポンと叩かれ

「どんまい」

カラカラ笑う大野に 申し訳なさが募る。

中断してしまった事にも 大した詫びも出来ないまま 次の仕事へと向かう俺と二宮以外の三人を ただ見送るしかなかった。

こんな時 居残るのは幸か不幸か かなりの確率で二宮だ。

チラと壁の時計に目をやれば

「俺 あと一時間後」

壁に寄っ掛っていた二宮が 頭に巻いてあったタオルを こっちへ投げて寄こした。

汗でじっとりしたタオルを手に 微動だにせずいると

「…泣きなさんなって」

そう言われて 視界がボヤけてんのに気がついた。

「……情けねぇし」

独り言ちて タオルを頭から引っ被れば

「アンタの泣き顔…」

小さく咳払いした二宮が

「…ホント 苦手」

独り言ちり返した。

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