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a faint

第40章 A-22


A’s eye

与太話を聞かされるのはゴメンだ、と云わんばかりの顔をするけれど 元を正せば 話があると呼び出したのは 松本からで

「翔さんから……」

席に座った途端 ”預かってきた” とそう言って差し出されたUSBを 俺は一度も手にするコト無く 一瞥しただけ。

おそらく ソレには 二宮さんのありとあらゆる情報が入っている。

お抱えの探偵に兄さんが調べさせたか はたまた親父の差し金か。

何にせよ そんなデータ 俺には必要ないし どう云うつもりで そんなモノを寄越したのか、悪意とも取れるし 善意とも取れる。

どんな思惑があるのかとか 裏の裏やらを深読みしたり するなんてのは とんと苦手な分野だ。

”……だったら面倒臭いモノは さっさと始末をつけよう”

胸内でそう決めた瞬間 USBを仕舞おうとする松本の手を掴んでた。

「え?…何?」

ギョッと見開く目に

「やっぱ 貰っとく」

奪うよう小さなメモリを指で摘むと 氷が溶け すっかり温くなってしまった水のグラスへと

「はい さようなら」

これ見よがしに ソレを沈めた。

その一瞬の流れを一部始終を見ていた松本は 詰めていた息をハッと吐いたその口で

「なかなかどうして……」

ピュイと軽く短い口笛を吹いて

「……やっぱ オマエ骨太なヤツだわ」

”こんな細っこいのにな” と何気に失礼なコトをぶっこき 黙りこくった俺の髪を クシャクシャと掻き混ぜ

「……で、気は済んだ?」

男前な顔を崩して笑うのが やけに可愛くて

「環境に優しくないことした」

ブスッと言い返す。

「何それ?意味分かんねえ」

肩を竦めた松本の目がスマホの画面に向き 慌ててカップを傾け コーヒーを一気に飲み干す。

「時間?」

約束があったのかと言外に聞けば 頷いて

「翔さんとね……」

リュックを背負い

「……待ち合わせてるんだ」

そんなコト 早く言えよと云う前に 素早く人差し指に口唇を抑えられた。

「またな」

財布から出した千円札をテーブルに置き 颯爽と店を出ていく松本の背中へ

「………惚気けてるつもりなかったンだけどな」

独り言ちた。

水に沈んだUSBと グラスに付いた水滴が相まって 何だか前衛的なオブジェに見えた。



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