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a faint

第42章 N-18


N’s eye

目眩(めくるめ)く今日の始まり。

思ったコトを 口にする前に 一旦 脳内で濾過する。

本音を迂闊に露呈(ろてい)させないために。

考えたコトを 声に出す前に 軽く咀嚼し 嚥下する。

建て前だと露骨に露顕(ろけん)しないように。

胡散臭く頬を少し吊り上げただけでも 見ようによっては 微笑となり ただ呆けていても 視線を落とせば 憂いを帯びて見えるらしい。

世渡り上手だ とか 誑(たら)し と他人(ひと)は 見た目まんまをそんな風に値踏みする。

まるで オークションだ。

当たり障りなく 建て前やら 世辞を 恙無(つつがな)く口に出来るけれど 削ぎ落とした数多(あまた)の罵詈雑言は 滓(おり)となり 沈澱し 蓄積されて 俺をドス黒く侵食していく。

「ニノ!」

朗らかで 張りのある声。

こっちを見る黒い瞳に映り込んだ ”俺”が俺を見て笑った。

ハイタッチするつもりだろう挙げた手を むんずと掴み 有無を言わせず 連れ帰り 良いも悪いも聞かず 押し倒す。

無茶苦茶に抱いてしまいたくなる時がある。

強引に 強欲を満たし 蹂躙して 充足する。

時にぶっきらぼうに 時に猫なで声で 上げて 落として 。

整わない息のまま、ホトリホトリと涙を滴(したた)らせ その濡れた朱唇の端を 啄(ついば)めば ソクンと身を竦めるのが 麗(うるわ)しい

しっとりと湿気た肌と うっとりと火照る顔が

「……キスしよ」

誘いに任せて 薄く赤い粘膜を ただくっつけるだけ。

体液で生臭くベタついた身体を突き放し ゴロリと仰向けになる至福のひととき。

燻らせたタバコの紫煙の向こうで か細い肩を揺らすこのヒトは 俺の濾過器だ。

澱みも 穢れも 浄化された俺。

有るが儘に 有りの儘に。

目紛(めまぐる)しい今日と云う日の終わりに。





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