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a faint

第45章 N-20


N’s eye

素気なく背けられた背中の向こうから

「明けたね 今年が…」

年始の挨拶が独得な言い回しなのは毎年のこと。

夜明け前 掴んだ腰を揺さぶりながら 喘ぐ声の狭間に 同じコトを聞いた気がするのは 気のせいじゃないはず。

綺麗に刈り上げた項にヒタと視線を当てれば 何を察したのか 肩の丸い稜線がフルリと震え 掛けてあったリネンが少し動いた。

オイルライターを擦る音と程なく漂う嗅ぎなれた煙の匂い。

向こうを向いていた顔と身体がゴロリと仰向けになって

「……明けたね 今年も」

語尾を若干変えて 感慨深げに言ったところで 何度目かの同じ言葉にこちとら呆れ半分 憤り半分。

あからさまな溜め息を吐けば 邪険にするなよと不服げに口唇を尖らせる。

その尖った先を ギュッと指で挟めば プウと頬を膨らませるから

”フハッ”

その安っぽい玩具みたいな仕草に笑う以外の選択肢があるなら教えて欲しいもんだ。

和んだ空気に気を良くしたのか ツンと尖っていた口唇が 今は蛸みたいな口になっている。

リクエストには応える主義だ。

鋭角の小ぶりな顎先をグイッと掴み 思い切りキスを噛ます。

激しい口淫の攻防に 互いの下半身も次第に熱を帯びるのは仕方ない。

その勢いで伸(の)しかかろうとして

「……ちょい待ち」

あっさり押し退けられ ムッとする俺の頬へ アイツはチュッとわざとらしく音を立てて吸い付くと ベッドを抜け出した。

間接照明の橙色に仄かに染まる剥き出しの尻が寝室を出て行く。

妙な不完全燃焼さを くすねたタバコに火をつけて紛らせる。

BOXの中身はあと一本だ ざまぁみろ 。

メタリックグリーンの箱を投げては取り 投げて取ってするうちに 程なく真っ裸でフリチンのアイツが戻ってきた。

「…ん」

目線の先の小洒落たショットグラスには 透明な謎の液体。

その正体を当ててみろってコトらしく

”テキーラ……ジンか?”

ありきたりな酒しか思い浮かばない我が脳内が至極残念。

ニヤリと口角を上げるのを横目に 奪うようにグラスを取った。

フワリと鼻先を掠める馥郁たる香りは おそらく日本酒好きなら一度は口にしてみたいと願うであろう垂涎の銘酒。

だったら答えは こうだ。

「……お屠蘇」

まどろっこしい年明けに さっさとグラスを傾けようか





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