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Kissシリーズ

第26章 ホワイトデーのキス

ため息が白くなるこの季節、頭がすぐ冷えるのは良い。

…おかげで次の動きもすぐに対処できる。

でもさすがに帰りは寒いなぁ。

途中、コンビニでも寄ろうかな?

コンビニのディスプレイはすでにホワイトデー一色。

バレンタインデーにはチョコと決まっているけど、ホワイトデーはキャンディーだったりマシュマロだったり、最近はいろいろ出てきている。

でもわたしが貰うんだったら、やっぱりキャンディーがいいな。

フルーツ味の、甘いヤツ♪

…貰うアテはないし、自分で買おうかな?

沈んだ気持ちのまま、上り坂にかかる。

行きと違って、帰りの上りは緩やかだ。

座ってこいでも大丈夫なぐらい。

そして、今度の下り坂はとんでもない。

だから今度は足を閉じて、身を縮ませ、スピードに身を委ねる。

下手に何とかしようとすると、コケる可能性があるから。

そうして慎重に下ったところで、一度自転車から降りて、深呼吸。

「ふぅ…」

さすがに空気の冷たい時に下ると、ノドも心臓も痛くなる。

深呼吸を何度かして落ち着いたところで、再び自転車に乗ろうとしたら…。

「あっあの」

「えっ?」

聞き覚えのある声に驚いて顔を上げると…彼が、いた。

「えっ、なっ何で?」

自転車から降りると、彼は駆け寄って来た。

「よかった、会えて…。バスの窓から見かけて、もしかしてと思って、待ってたんだ」

うっ! みっともないところをっ!

「あの、コレ。お返し」

そう言って彼はキレイにラッピングされた袋を差し出してきた。

「えっ? あっ、もしかしてチョコの?」

「うん」
律儀だなぁ。

確かにホワイトデーも日曜日だから、金曜日に渡す人は多いだろうけど。

「あっありがとう。ゴメンね? 何か気を使わせちゃったみたいで」

受け取ろうと手を差し出したら、いきなり引っ張られて、気付けば彼の腕の中にいた。

「…えっ?」

「あの、さ。あのチョコ、本命のだって、うぬぼれても良いんだよな?」

「あっ…」

わたし、何も言わずに渡しちゃったから…。

「…キミに彼女か好きな人がいなければ、そう思ってくれると嬉しいんだけど」

だから今、あの時言えなかった言葉を言う。

「好きな人は、今、オレの腕の中にいる」

彼の言葉に、思わず涙が浮かんだ。

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