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俺の男に手を出すな

第3章 ガネーシャ

【智side】

その晩、先に帰って刺身で晩酌していると、翔君から電話が入った。

「智君、俺、お持ち帰りされる~」

「は?」

「アリヨシさんが、神様を返さないなら俺を持って帰る、って」

「…は?」

「タクシーに乗せられちゃったよ、どうしよ~」

「…………」

呆れてものも言えないでいると、電話の相手が翔君からアリヨシさんに代わった。

「もしもし、大ちゃーん?」

アンタ、今まで俺のこと、大ちゃん、なんて呼んだことないだろう。

「この一週間、良いこと尽くめだったんだって?
良く無いなぁ、独り占めは良くないよ
俺なんて大変だったんだから」

「ちょっと、アリヨシさん、駄目っすよ」

「通販で買ったおもちゃが一階下の人に届いちゃってさ~
しかも開けられちゃってるし
開ける?普通?
それをご丁寧にウチまで持ってくるんだから
持って来る、普通?
も~、そん時の俺の気持ちわかるでしょ?」

わかるかっ!
そんなもん、買うな!

「あ~、やめた方がいいっすよ
今ならまだ見逃します」

「翔君と神様、交換だからね~
ま~、翔君、女の子みたいな顔してるし
一晩、お預かりしまーす」

酔ってんな、これは。
アリヨシさんの後ろで、翔君が、勘弁してくださいよ、俺帰ります、って言ってる声がする。

むぅ…。

オイラはテーブルの上にスマホを置き、ガネーシャ様の前に立つと、手を合わせてお願いした。

「障害を取り除く慈悲深き神、ガネーシャ様
オイラの男が無事に帰って来るよう、お力をお貸しください」

ピンと空気が張って、一瞬の後にそれが弾けた感触がした。

スマホを手に取ると、嘘だろ!?嘘だろ!?と騒いでいるアリヨシさんの声がする。

「翔君~?もしもーし?」

何度か呼びかけたら翔が出た。

「もしもし、智君?
なんか、今タクシーがパンクしたぁ」

「怪我ない?」

「うん、赤信号で止まってたらプシューッて!
4本ともだよ!びっくりした~
俺、帰るね~」

「ん、気をつけて」

通話を切る直前まで、アリヨシさんが嘘だろ!?と叫ぶ声が聞こえた。

ふふっ。

俺の男に手を出すアンタが悪い。

オイラは立ち上がって再び神様の前に立ち、お礼を申し上げる。

たれ目の神様は、やっぱりイタズラそうに笑って見えた。




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