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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第32章 動き出す歯車


「お願いがあります」

「何かな?」

「各務さんの処分を取り消して下さい」

「キミにも分かるだろうが、既に正式決定し
 公表してしまった処分を覆すにはそれなりの
 理由が必要だ。会社の信用問題にも関わるからな」

「分かります」

「……仮にだ、私がキミの願いを聞き入れる
 としたら、キミは私に何を差し出す?」


 見返りも必要ってことね……覚悟はしてきた。
 
 
「今後一切、各務さんには会いません。
 携帯電話も番号を変え、彼からの連絡にも一切
 応じません」

「それをどう、私に信じろと?」

「進学で京都へ戻ります。少なくとも3年は上京も
 しないつもりです」

「……分かった、会長にも相談して、前向きに
 検討してみよう」

「ありがとうございます。では、これで失礼します」


 立ち上がり、一礼して戸口へ向かうと、
 先に外からドアが開いて、静流先輩が現れた。


「絢音……今、利沙から連絡もらったの」


 先輩の顔は心なしか青ざめて見えた。
 利沙から大方の事情を聞いたのだろう。


「そう……って事ですから、落ち着いたら食事でも
 しましょうね。また、連絡します、じゃ」


 先輩にも一礼して廊下へ出た。


『あやっ!』

「追うな」

「どうして?! 
 あなた一体あの子に何を言ったの??」

「他愛無い世間話しさ」

「ふざけないでっ」


 広嗣は廊下に控える高田に言いつける、


「高田」

「はい」

「彼女が来た事、竜二には一切言うな。
 役員達に招集をかけてくれ。集まり次第、
 役員会を開く」

「畏まりました」


 何時になく厳しい面持ちの婚約者を見て不安になり、
 静流は恐る恐る訊ねる。


「……何をする気?」

「予定通り竜二は愛奈さんと結婚させる、
 それだけだ」

「きっと竜二は最後の最後まで足掻くわ」

「それでも動き出してしまった歯車は、もう誰にも
 止められないんだ」

「……」  

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