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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第32章 動き出す歯車


 小一時間後、㈱各務本社。
 社長の緊急招集で開かれた役員会も無事(?)
 終わり、
  
 静まり返った会議室に、憮然とした表情の広嗣と
 もぬけの殻のようになった竜二だけが残っていた。


「……あんな決定、俺は承諾しない」

「これは彼女 ―― 和泉さんの希望でもある」

「嘘だっ!」

「今日、会社へ来てお前の処分を取り消してくれと
 言われた」

「ふんっ ―― あんたは他人から言われただけで
 素直に応じるようなタマじゃないだろ」

「……マンションから出て行く事、そして今後一切
 お前とは接触しないという提示をされ、私は
 その条件を呑んだ」

「!!……」

「携帯電話の番号も変えるそうだ。……私の所へ来た
 彼女は手の色が変わる程ギュッと手を握りしめ、
 体も震えてた」

「あや……」

「本気にお前の事を思った末での決断だと思った、
 だからお前も彼女の事はすっぱり忘れろ。
 ……和泉さんの誠意を踏みにじるな」

「何が誠意だ……っ、俺の気持ちは完全無視かよ」


 ショックで呆然とする竜二に「仕事に打ち込め」と
 ひと言残し広嗣は出て行った。

 竜二は震える手でタバコに火を点ける。

 取り出した携帯で絢音の番号へかけてみるが、
  ”お掛けになった電話番号は現在使われて
   おりません”
 と、無機質なテープの声が聞こえてきた。

 あいつが、俺の前からいなくなる?

 姿を消した? ―― 嘘だっ!

 絢音は ”待ってるから、早く帰れ” と
 言ってくれた。

 あいつが俺に嘘などつくハズがない。

 きっとこれは何かの間違い……そう、悪い夢。

 いつものように帰れば、絢音が笑顔で迎えてくれる。

 竜二はタバコをもみ消し立ち上がると、
 小走りでエレベーターへ向かった。 

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