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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第33章 偶然


「そんな……」


 2度と会わないと決めた竜二さんが立っていた。

 私も凄く驚いたけど、
 彼はもっと驚いた表情で私を見ている。

 耳の奥で大きく聞こえる自分の心臓の音と共に
 周囲の景色が消え、竜二さんだけが私の目に
 映っている。

 2人の間の時間(時)が止まった……。
  
 私はその場に凍りついてしまったよう動けなかった。
 竜二さんも動かなかった。


 『絢音っ!』という利沙の声で
 2人の時間は元に戻り呪縛が解けた。

 ―― ここにいちゃいけない。

 利沙の腕を引っ張って竜二さんと反対方向にある
 地下鉄の昇降口へ走り出した。


「待て! 絢音っ!」


 竜二さんの声が聞こえなくなるまで
 全速力で走った。

 やっぱりここへは来るんじゃなかった。

 スマホのエディ機能を使って自動改札機を通過。

 階段も一気に駆け下りて、息を切らしながら
 ベンチに座った。


 ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ …………


「ちょっ、あん、た……足、速……っ」


 息を整えながら利沙が笑った。


「……ごめん」

「……鉢合わせちゃったね」

「うん……もしかしたら、とは思ってたけど、
 びっくりした」

「でも、久々に顔、見られたやん」

「それはそうだけど……」

「や~ん、絢ちゃんってば、カオ真っ赤」

「ウルサイ」

「……んじゃ、行きますか、明神さんの桜まつり」

「まさかあっちでも、バッタリ、なんて事はない
 よね?」

「あー? アハハハ ―― 
 んな偶然そうそうある訳ないじゃん。
 大丈夫 だいじょうぶー」

「だよね…… じゃ、行こうか」


 いえ いえ、
 1度ある事は2度ある、のです……

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