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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第33章 偶然


 絢音の後を追いかけたけど、通行人が邪魔をして
 俺は絢音の姿を見失った。

 まだ心臓が激しく脈を打っている……。

 体の震えも止まらない。

 久しぶりに見た絢音は変わっていなかった。
 話したかった……抱きしめたかった。

 忘れる事なんか出来るハズがない。
 こんなにも絢音を心から愛しているのにっ。

 俺は強引に気持ちを切り替え、
 本屋で静流の用事を済ませ会社へ戻った。 


 ***  ***


 何も言わずに執務室へと入ったオレを不審に思い、
 静流が後に続く。


「―― ありがと、結構気持ちよかったでしょ?
 外も」


 分厚い本の入った袋を受け取った。


「まぁ、な。気分転換にはなった」

「お祭りは6時スタートだから、5時半位に迎えに
 来るわね」


 と、静流は戸口へ向かう。


「―― 絢音と会った」

「!!……それで?」

「追いかけたけど逃げられた」

「あっちは若いのよ、
 親父のあんたが敵うわけない」

「……あのまま彼女を連れて逃げ、
 各務とも一生縁を切ろうかと考えた」

「バカ言ってんじゃないのっ。今さら何よ」

「分かってるさ。冗談だ、冗談……」


 ため息をつきながら出て行った静流を
 確認すると、俺はぐったり椅子に沈み込んだ。

 あの時、躊躇せず絢音を捕まえていたら。

 その足で東京を ―― 
 日本を飛び出して行けたのに。

 各務を捨て、ずっと一緒にいられたのにっ……。

 叶わぬ事とは分かっている。

 大きな代償が伴うバカな行動を、
 絢音が許さない事も分かっている。

 それでも俺は絢音と一緒にいたかった。

 女々しく泣き出しそうな顔を両手で叩き活を入れ、
 俺は残りの仕事を再開した。

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