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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第33章 偶然


 あぁ! 
 彼女を助手席に乗せて車を走らせるなんて、
 *ヶ月ぶりだ。

 ささやかな幸せにうち震える。
 

「どこに行く?」

「……何処か、静かな所」

「了解」




 竜二は再び車を走らせる。
 絢音は車が揺れるせいにして、
 竜二がシフトレバーを握っている左手へ
 自分の右手をそうっと重ねた。
 

 車は街外れの高台をひたすら上った。

 民家もなくただ木と草しかないような寂しい道を
 走る。


「―― 着いたぜ」


 竜二はそう言って先に降り立ち、
 助手席へ回って、絢音も降りるよう促した。


「……ここ?」


 (何にもないけど)
 

「こっちだ」


 絢音は竜二の方へ歩いて行った。


「わぁ ――」


 高台から見下ろす街の夜景。

 特に今日は空気が澄んでいるせいかキラキラ光って
 とても綺麗だった。


「綺麗だろ?」

「うん。こんなとこに、
 こんないい場所があったなんて……」

 
 絢音は夜空を仰ぐように見上げる。


「空もお星さまもすっごく綺麗。
 なんだか手が届きそう」


 そう言って星空に手を伸ばす。 
 
 そうして2人そこからの眺めにしばし
 言葉を失い、魅入っていた。


 ヒュルルル ――――

 吹き抜けていく風に思わず体を縮こまらせ、
  ”クシュン!”2人同時に大きなくしゃみ。

 顔を見合わせ、思わず吹き出す。

 ひとしきり笑った効果か?

 それまで2人の間に漂っていた何とも言えぬ
 気まずさが一気に消えた。

 少し震える絢音の体をそうっと抱き寄せる。


「……逢いたかった……ずっと……」

「……も」


 抱きしめる力を徐々に強める竜二の背中に
 絢音がおずおずと腕を回した。


「……わたし、も……逢いたかった……」


 絢音が自分の背中を離してしまわないうちに、
 竜二は絢音に口付けた。

 抑えていた感情を一気に互いにぶつけるように
 何度も口付けを交わす。

 やっと……触れることが出来た。

 もう、どうなっても良かった。
 どんなに責められようと ――
 批判されようと ――
 絢音と一緒に居たい。
 彼女とこれからの人生を歩いていきたい。

 2人は飽きることなく口付けを交わし合った。

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