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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第10章 新天地・東京へ


「……ぎゃっ!」


 たまたま凹凸のあった路面にできた水溜まり。

 そこを各務の車が通った途端に飛沫が散り、
 歩いていた絢音へと容赦なく飛ばされてきた。

 呆然とする絢音。

 我に返って自分を見下ろすと右半分、黒い斑点が
 元々の柄のように散らばっている! 


 ”うわぁぁン!” 


 このコート買ったばっかなのに、裾から衿まで
 見事なまでのドット柄。
  
  
「マジぃ?? うそ、信じられない~」


 18900円もしたのに! 
 お小遣い切り詰めてやっと買ったのに! 
 ナニこの状況!
 
 何か、マジ、泣きたくなってきた。
  
 ―― と、後ろの方で、バタンと車のドアが
 閉まった音がした。


「いやぁ、わりぃ わりぃ」


 あの黒いヤー車の運転手が律儀に車を停めて、
 運転席から出てきてしまった。

 しかもこちらに走ってくる。
  
 関わりたくはなかったが、人に水溜りの泥水を
 ぶちかけておいて ”わりぃ わりぃ” って、
 そんなふざけたまるで反省の色が見えない
 各務の口調が非常にムカついた。
  
  
「もーっ! どうしてくれんのよ?! あんたそれでも
 ホントに悪いと思ってんの??」

「ついうっかりして、いつもそこに水溜まりが
 できること忘れてた。クリーニング代は俺が
 もつから」
 
 
 そんなのは当たり前だ! と、思ったけど、
 持ち前の見栄っ張り+意地っ張りが
 首をもたげた。
  
  
「もう、結構です」  
 
  
 ヤバっ ―― 遅刻しそ。

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