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夜の影

第40章 恋

【智side】

「危険な目に遭わせて済まなかった」

「ごっ、ごめんなさい」

「何故謝る?
お前は何も悪いことはしてない。
詳しい話は部屋で聴く。戻ろう。
サカモトが車を残してくれた」

「待ってなくて、いいの?」

「車に鍵がついていた。
戻らないつもりで置いて行ったんだ」

歩き出すように促されて。
でも、やっぱり不安で。

「あの、俺、仕事終わったし、ウチに……」

ヒガシヤマさんは不思議そうにオイラを見た。

「帰りたいのか?」

違う、って頭をブンブン振る。

「そう、じゃない、けど……」

上手く言えなくて目を逸らした。
ヒガシヤマさんはまたオイラの顔を両手で包んで上を向かせて、目を合わせてくる。

「智、何が怖い?
あいつらに何かされたか?
アキラの仕事が終わったら、俺の所に帰って来い、と言っただろう」

ヒガシヤマさんの声がちょっと苛々してて。

だって、俺はアンタのことが好きなんだ。
好きになっちゃったんだよ。
仕事で関わっただけなのに、そんなの迷惑でしょ?

心の中で言ってみるけど、勿論伝わらない。

「ああ、悪かった、怒ってるわけじゃない。
お前を責めてるわけじゃないんだ、泣くな」

「…………」

「やれやれ、そういうことか。
あのアシスタントだな。
何か信頼が揺らぐようなことでも言われたか?
智、俺はお前を傷つけない。
いいか、俺を信じろ」

「……信じ、てるよ?」

「こうして出会ったのも一つの縁だ。
俺の所に来い。
お前が一人立ちして社会に出られるようになるまで傍に居ろ」

「え?」

今、何て言った?
聞き間違い?

「お前は俺を振るなよ。
今夜は既に同じ提案をして振られてる。
見限られるのは存外堪えるもんだな」

「あの、何?」

「あの林のアシスタントにも、ケンと一緒に俺の所に来いと言ったが、振られてしまった」

口の端だけちょっと上げて、ヒガシヤマさんが笑った。
引き寄せて腕の中に抱いてくれたから、胸から声を聴く。

「……お前の悲しみが癒えるまででいい、俺の傍に居ろ。
ここで別れたりしたら、気になって仕方ない。
お前が嫌じゃなければ、もう少し俺に面倒を見させてくれ」


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