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my destiny

第5章 風の中のキャンドル

【智side】

耳鳴りがしてる。

体中が脂汗でベトベトだ。

胃酸で焼けた胸と喉が、痺れて痛い。

吐くのが久しぶりだったから、こんなに苦しいんだっけ、とびっくりした。

泣く気もないのに、体の反応で勝手に出て来た涙が止まらない。

あ~、も~、何してんだろう、オイラ。

動けなくて。
個室の床に座ったまま、壁に寄り掛かって呼吸が落ちつくのを待っていると、翔くんが濡らしたタオルで顔を拭いてくれた。


「…ごめん…」


オイラが言うと、翔くんは小さく首を左右に振る。
俺が迷惑かけてんのに、翔くんの方が悪いことをしたみたいな顔で。


「…もうちょっと、座ってて、いい?」

「いいよ
俺、荷物取ってくるけど待てる?大丈夫?」


お店、汚しちゃったかな…。


「…店は?」

「床は汚してないよ、大丈夫だから
会計もしたし、二人は帰したよ」


良かった。

疲れた。


「マネージャーに連絡したから
このまま病院に行こう」


億劫で、首だけ振って嫌だ、って伝える。
この時間に呼び出すのは悪い。

ちょっと吐いちゃっただけだよ、問題ない。
明日は休みだから、大人しくしてれば大丈夫だから。


「体調管理も仕事の内って、
いつも言ってるのは貴方でしょ?
点滴打ってもらうだけでも楽になるから」


頭を撫でる手は優しいのに、顔が怖いよ、翔君。

今から病院に行ったら、オイラに付き合う翔君が疲れる。


「…明日行く…もう帰りたい」


翔君の手が止まって、じっと見つめられる。
こういう時は、お願いするしかない。

翔君に向かって腕を伸ばす。


「翔君、お願い、連れて帰って
大丈夫だから…俺、帰りたい」


溜息をついた後、翔君が立たせてくれて、抱えられながら店を出た。




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